山奥の廃墟にて…
「なぁ、ここが修験者の住居なのか?」
あまりにもイメージと駆け離れた光景。
思わず振り返って質問を投げ掛けるが、答えは誰にも分からない。
簡素な寺や神社を想像していただけに、そのギャップに戸惑ってしまう。
「どう……じゃろうか…。少なくとも今は誰も――あ、待たぬかギンレイ!」
二の足を踏む俺達を尻目に、ギンレイは何の躊躇もなくボロボロの小屋へと入ってしまった。
こうなっては仕方ない。
無言で視線を交わした俺達は覚悟を決め、ゆっくりと入口だった所から中へお邪魔する。
「あー……すいませーん……。
誰か…居ないっすか?
居るワケない…よね?」
まるで泥棒みたいな居心地の悪い気分で入ると、あっちこち穴が空いてはいるものの内部は意外としっかりしているようで、少なくとも住居として最低限の条件である壁や天井は存在していた。
もちろん、事前にかなりハードルを下げておいたので、拳大の穴や裂け目はスルー対象だ。
「……ふむ、やはり無人の廃墟か。
ん、これは……なんじゃ?」
ギリギリ形を保っていた茶碗にあった物、それは二個のサイコロだった。
他にも空っぽの酒瓶が多数……。
錆びた刃物に異世界の――いや、昔の和同開珎?
初音に聞くと、かなり昔の貨幣らしい。
「やっぱ目的の住居とは別なんじゃないか?
だい~ぶ荒れた生活をしてたっぽいぞ」
「かもしれんな。しかしのう、時代をまたいで複数の者が利用していた可能性もある」
確かに小屋の奥には積み上がった薪と木炭があり、過去には炭焼き小屋として利用する者が居たのかもしれない。
少しずつ廃墟の謎が解明されていくのに、先に入っていった愛犬の姿が見えないのだが…。
ギンレイは一体どこへ行ったんだ?
「しょうがない奴だな。どっちにしろ必要になるんだから、今の内に買っとくか」
薄暗い小屋を照らす為、Awazonで購入したのは中型のLEDランタンと小型ヘッドライト。
比較的小さいからと侮るなかれ、ランタンは驚きの300ルーメンを誇る防水性電池式で、ヘッドライトの方も電池一本で12時間を照らす人気モデルだ。
「ふぉぉおお! 昼間のように明るい!
なんじゃ、こんな物があるなら早う出せ」
至極もっともな意見だが、こちらにも懐事情というモノがあるのだよ。
ランタン片手に小屋を見回すと、奥まった所で小さな尻尾が揺れている。
何かを一心不乱に引きずり出そうとしているのか、後ろ足を踏ん張って必死の様子。
よく分からないけれど、頑張ってる姿が堪らなく可愛かったので抱き上げると…。
「あ、あしな……それ……!」
「……ほ…ね? 人のッ――頭蓋骨!?」
足元に転がった白い物体。
それを見た瞬間、緩やかな時間は過去へと過ぎ去り、全身余さず鳥肌が立つ!
何故こんな場所で人が……。
予想すらしていなかった事態に動揺した俺は、あろう事か――思いっきり頭蓋骨を蹴り飛ばしてしまった!