異世界キャンプの始まり
バッタリと仰向けになったまま動かない俺を見て、腹を空かせたギンレイが朝食の催促を顔面ペロペロで促す。
頼むから……今だけはそっとしておいてくれ……。
「情けないのう! それに話は半ば途中ぞ。
お主は死ぬと決まった訳ではないのじゃ」
「……は…はいぃ? なんだよ!
それを先に言ってくれよ!
メタクソ焦ったじゃねーか!」
まだ助かる道が残されている。
俺は逸る気持ちを抑え、初音大明神様の有り難い御言葉を待つ。
だが――。
「ここ、神奈備の杜は元来、人の立ち入るべき土地ではない。杜全体が霊気に満ち溢れ、強すぎる力によって意思薄弱な者は近づくだけで悪影響が出ると聞く」
思わず喉が鳴る。
そんな危険な場所で遭難していたとは…。
初音の言葉は更に続く。
「だがな、霊力を得ようとする修験者にとっては絶好の土地なのじゃ。その中でも、取り分け強い力を持った者が杜の奥地に居を構え、今も存在するらしい…」
らしい、か……。
多分、誰かからの伝聞だと思うが…それでも現状、話を聞いておかなければならない。
たとえ、根も葉もない噂話だったとしても、他に助かる道はないのだ。
「つまり、俺はそこへ行って女媧を祓うしか助かる方法はないって事なんだな?」
「まぁ、そういう事じゃよ。
それまでの間、お主には数々の厄災が降りかかるであろうが――極上の暇潰しぞ。
ワシにとってはな!」
流石は行動力の化身、鬼属の初音さんだ。
これなら遠慮など無用だろう。
「OKOK.そういうコトなら良心の呵責ってヤツに苛まれずに済むってわけだ。だってそうだろ?
好き好んでヤバい橋を渡ろうってんだからな。
こちらの家出少女サマはよ!」
互いの奇妙な利害関係は奇跡的な一致をみせ、ここに種族と世界すら超越したコンビが誕生した。
そうだ、最初から何も変わっていない。
俺が異世界に来てからずっと、遭難しているという事実に変わりはない。
唯一の懸念であったギンレイの怪我も完治を果たし、数日ぶりに解いた包帯の下は艶やかな毛に被われていた。
「良かった。これで完全復活だな」
覚悟を決めた俺は簡単な朝食を済ませた後、大急ぎで出発の準備を始める。
本来なら刈り取った後に乾燥させるハトマメムギを可能な限り脱穀して麻袋に入れ、その他に採取した有益な植物も残らず持っていく。
ラセンタケとツルムシで組んだ背負子にドラム缶を載せ、山盛りの塩とハーブや香辛料を加えて凍った猪を詰め込み、当面の食料とした。
最後に猪の毛皮でフタをすると、普通の人間なら移動させるどころか持ち上げる事すら不可能な重量なのだが、幸いにして同行者は人間ではなく鬼だ。
「これくらいなら朝飯前じゃよ」
そう言って猪入りのドラム缶を背に、軽快な小走りまで披露してみせた。
きっと日々の膨大な食費を補って余りある働きをみせてくれるだろう。
新しくAwazonで80リットルの登山用バックパックを購入して荷物を入れると、ホームと呼んでいた洞窟にしばしの別れを告げる。
「今日をもって遭難改め、異世界の旅が始まるんだ!」
隆々とした川に導かれるまま、俺達は神奈備の杜の先にあるという奥地を目指して歩き始めた。
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ここまでのAwazonポイント収支
『ドラム缶風呂を体験――3000P』
以下を購入
『ドラム缶――5000ポイント』
『メンズ夏服一式――5000ポイント』
『ルームウェアワンピース――3000ポイント』
『タオル(二枚)――1500ポイント』
『メンズシャツ――1000ポイント』
『おろし金――500ポイント』
『登山用バックパック――12000ポイント』
現在のAwazonポイント――365,900P
読んで頂きありがとうございます。
ここまでが第一部といった感じでしょうか?
次回からは異世界の深い森を舞台にしたキャンプ編がスタートします。
ちなみに本作に登場する神奈備の杜はモデルが存在しており、三重県の大台町にある大杉谷です。
日本三大渓谷に数えられる自然豊かな土地で、実際にボクも訪れた事があります。
作品の演出としてアレンジを加えてますが、現地の雰囲気が伝われば幸いですね。