バレてしまった秘密
「ほお~『あわじょん』とな…?
40年近く生きておるのに、見聞きした覚えもない言葉じゃのう」
こんな白状のさせかたなんてアリかよ……。
女の子とはいえ、鬼を相手に力で勝てないのは腕相撲の時に思い知ったので、殆ど無抵抗のままに全てを教えた。
Awazonという謎の存在を隠していた件について、真相を知った初音は意外にも怒るどころか、神妙な顔つきで自分なりの考察をしているようだ。
とはいえ、俺でさえAwazonの事を全く知らない状態で使い続けているとなれば、何の手掛かりもなしに解明するなど無理だと思うのだが……。
「まぁ…そんなワケでだな、現状でAwazonは俺の生命線と言っても過言じゃねーのよ。
コレのお陰で、今日まで危険な森の中でも生活できてるって事なのさ」
既に洗いざらい吐いてしまったのは、逆の意味で隠し事がなくなったと考えればいい。
これで初音に対して負い目を感じる必要もない上に、変に隠し続けて不信感を抱かれる心配もないのだから。
「この…光る板はほんに奇怪じゃ。
暗闇で文が詠めるなどとは……ふむ」
スマホを手にまじまじと見つめる初音。
いや、それよりもバスタオル一枚で居座るのは本当に勘弁して欲しい。
このままでは落ち着かないので、どうにか初音をなだめてドラム缶風呂へと誘導する。
「他に知りたい事があれば後で教えてやるよ。
体が冷えたままだと風邪をひくぞ。
食事の準備をしとく間に、もう一度風呂に入り直してくれ」
強引にスマホを取り上げるとギリギリ納得してくれたのか、渋々といった感じで湯に浸かってくれた。
帰り際にギンレイを持ってくるように言われ、ホームに避難していた狼に再出動という名の遊び相手を命じる。
「済まないけど行ってくれるか、ギンレイ」
全身の毛がようやく乾いた頃だったのか、焚き火の前で寝ていたギンレイは特に同意を示した訳ではないが、初音の反発を恐れた俺によって強制的に二度目の風呂を体験する。
折角の安眠を邪魔された上に、鬼娘のオモチャにされるギンレイを思うと涙が止まらない。
「頼んだぞ、ギンレイ!」
背後から聞こえる悲痛な呼び声に耳を塞ぎ、幼い狼にエールを送る。
しかし、俺の方も休んでいる暇はない。
アイツは次に『腹が減った』と言うだろうから、先に食事の準備を進めておく。
と言っても内容は実にシンプル、今日の夕食は待望の肉!
しかも、鮮度抜群のホルモンだ。
こいつを焼きと鍋の両方で頂くのだが、なにしろ2mの大物猪から取れたので量が多い。
いや、多過ぎると言えるが果たして食べきれるだろうか?
遠くから初音の笑い声と水音、そしてギンレイの悲痛な鳴き声が聞こえてくるが、体を洗うという名目で遊んでいるのだろう。
兎に角だ、今はギンレイが身を挺して足止めしてくれている。
さっさと準備を整えなくては!
数種類のホルモンを下ごしらえした後に鍋に投入して火に掛ける。
今回はちょっとした工夫を効かせてみたので完成が楽しみだ。
次は平石を使った焼き肉。
種類毎に竹皿へ移して、部位の味わいをしっかりと堪能する準備を整えていく。
今の内に調味料を揃えておく為、Awazonでおろし金を買っておこう。
ちょうど準備が完了した頃に、タイミング良く初音が姿を現す。
小脇のギンレイが疲れ果ててグッタリした姿が哀愁を誘う。
ワンピース姿の初音は思ったよりも違和感がなく、一人でもちゃんと着れたようで安心した。
…ちょっとサイズが小さ過ぎたかもしれんが。
「良い湯じゃった、満足じゃ~!
して、今夜の夕餉は何かのう?
期待してもよいのじゃろ?」
「おうよ、葦拿さん特製ホルモン料理だ。
楽しみにしとけ~」