キャンパーの俺が家政夫になった件
「あー、湯加減はどうっすか?」
僅か半日で鬼娘のパシリにまで落ちた俺の立場について、アレコレと考えるのは保留とする。
あれから散々騒いだ末に交代で入る事になったのだが、こちらのお嬢様は風呂が温いと抜かしやがりましたので、こうして甲斐甲斐しく火力を調整している次第であります。
「うむ、ご苦労!
こうして外で風呂を楽しむのも一興よな」
はぁそうでっか、ほぅそうでっか。
なるべく顔を上げないようにしているが、初音は肌を見られる事に抵抗がなさ過ぎて困る。
鬼ってのは全部こんな感じなのか?
敢えて考えても分からない事を考えて気分を紛らわす。
すると、『暑い』と言って豪快にドラム缶から出ようとするので慌てて止めた。
本当に心臓に悪いからヤメテ。
しかも着替えがないとか言い出す始末。
こいつ……どんだけ無計画なんだ…。
その突飛な行動の数々から初音は家出少女だったのだと思い出し、改めて扱いに困ってしまう。
呆れつつも裸で居させる訳にもいかず、わざわざホームに戻ってAwazonで服を購入しようとするが……どれを買えば良いのか、全ッ然分からん!
そもそも初音の体型が謎過ぎる。
子供服だと多分上着が入らず、大人服だとブカブカだろう。
しばらく検索していると手頃なルームウェア ワンピースを見つけたので買ってみたが、これで大丈夫だろうか?
一緒にタオルも用意したのでドラム缶の脇に置いて早々に離れた。
「服はここに置いとくからな」
「何をそんなに慌てておる?
こっちにきてワシの着付けをせい」
……あーあー、あれれ? 全然聞こえない。
遠くから着付けが分からないとか言う声が聞こえた気がするが、簡単な構造なのですぐに理解できると思う。
振り向かずにホームへダッシュを決めると一旦気持ちを落ち着ける為、Awazonで必要な品物をざっと見する。
「そうだ、俺のシャツも追加で買っておこう」
選定の後に簡単な手続きを済ませると、いつものように宙から品物が届く。
この買い物をしている時が、非日常の中で安堵感を得られる最高の瞬間なのだ。
至福のドラム缶風呂を邪魔されたという事もあって、愚痴のひとつでも言わないとやってられんのよ。
「なんで俺が子供の着替えを手伝わなきゃならんのだ。つーか、一人で着替えられないから子ど…」
「ほぉ、誰が童じゃと?
否、それよりも気になるのは黒板の方かや」
片角を備えた額に青筋を浮かべた――いや、いやいやいや! それよりも真っ裸じゃねーか!
気づけば全身から温かい湯気を上げた初音が背後に立ち、一糸纏わぬ姿で堂々たる仁王立ちをかましてやがる!
だが、初音は全裸を見られる事など全く気にする様子はなく、むしろスマホに興味を持っているようだ。
「今しがた…どうやって衣を出した?
竹と黒板しか持っておらなんだお主が、どうやってヒノモトイノシシを退けたのじゃ?
あの時、どこからか聞こえた大きな物音も黒板によって生み出したのじゃろう?」
間を置かずに投げ掛けられる数々の問い。
そして、それと共に距離を詰める初音。
いや、そんな事よりも何よりも、思いっきり御立派な胸が当たって逃げられねぇ……。
「わ、分かった!
全部教えてやるから離れろって!」
押し問答にすらならない。
一方的に折れてしまった俺は隠していたAwazonの秘密について、包み隠さず告白するしかなかった。
おろし金