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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!
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異世界アプリ『Awazon』

「はーい、ここが今日のキャンプ地でーす」


 うつろな目をしながら誰に向けられた物でもない言葉を口にする。

 あれから日のある内にビバークの準備をするべく、手頃な木を支柱にしたデブリハットの作成を開始した。

 簡単に言えば即席のシェルターだ。


 高さ1m程で二股に分かれた木に、長めの倒木を2本V字に立て掛けて骨組みとし、幹に巻き付いていた『つる植物』をロープ代わりにして固定する。

 支柱と倒木の間を大量に用意した細めの枝で、縦と横のラインを埋めるように次々と立て掛けていき、最後に上から葉の付いた枝を被せて完成!


「我ながら中々のクオリティだな。

 ここが新たにオープンしたインターコンチネンタル東京ベイin知らん森支店だ」


 森の中でベイもへったくれもないが、アホな冗談でも言ってないと本当に気が変になりそうだ。

 それにしても、材料となる木材が沢山あって助かった。

 場所によっては作る手間よりも、材料集めに手こずる場合がある為だ。


「ダウンジャケットのマットレスは…うん、思ったより悪くない寝心地だな」


 丁寧に地面の石を取り除いたお陰で、体を刺激する地面の異物感は想像よりも少ない。

 作業が一段落して腰を落ち着けると、いよいよもって自分の置かれた状況が理屈では説明できない事を理解しつつあった。

 だからといって、何をどうすれば良いのかという根本的な解決策が全く思い浮かばないのだが…。


「腹ぁ減ったなぁ……。

 やっぱ草いっとくべきだったか?」


 考えても仕方ない状況よりも、今は空腹の方が差し迫った問題である。

 俺は空腹を紛らわせる為、少し前に採取した二分裂葉を取り出し、その不思議な構造に目を凝らす。

 多くの植物は葉の中央に葉脈と呼ばれる水を通す筋が存在するが、こいつは成長と共に1本の主脈が2本に割れて反対側へ向かって細かい側脈が広がっていた。

 その為、一枚の葉でも場所によって厚みの違いができる事で断面が台形をしているのだ。


「………初めて見る植物だな。

 マジに未発見の新種なのか?」


 見れば見る程、俺は未知の植物を前にどうしても写真を撮っておきたい衝動に駆られ、貴重なスマホバッテリーを消費してでも保存しようとカメラを起動させた時に、見慣れないアプリが目に入った。


「ん……こんなアプリあったか?

 Awazon?

 なにこれ怖っ!

 偽アプリって奴か?

 触ったらアカン奴やん。

 いつインストしたんだ?」


 よく見れば通知欄には、Awazonとかいう胡散臭いアプリからのメッセージが溜まっている。

 そうだ、キャンプ中は誰にも至福の時間を邪魔されないよう、一切の通知をオフにしていたのを忘れていた。

 流石に遭難したとなれば、今だけは間違い電話でも大歓迎さ。


「だけど妙だな。相変わらず電波は全くないのに、アプリの通知だけは届くだなんて…」


 絶対ないと思うが、もしかしたら救助の切っ掛けになるかも、という淡い期待が俺の意思を動かしてアプリを起動させた。


「おお、なんか見覚えがあるっていうか…そのまんまじゃねーか!」


 そこには普段から非常にお世話になっている某大手通販サイトのトップページが、夕闇迫る森の中に輝かしく浮かび上がっていた。

 よく出来ていたが一点だけ違う所はマイページに通知欄があって、訳の分からん駄文が延々と続いていた点だろう。

 アホらしいと思いながらも、最新の通知から順に目を通す。


「なんだ?

 デブリハットを作成した――10000ポイント

 正確な方位を認識した――5000ポイント

 猿酒を見つけた――2000ポイント

 ………嘘だろ?」


 なんとも言えない肌寒さを感じさせるメッセージ欄に、俺は心底震えた。

 どうして今日の行動が逐一記録されているんだ!?

 しかも最後のデブリハット作成が記録していた時間は、体感時間と遜色そんしょくがないように感じられる。

 つまり、ここに表示されている時間は正確な物である可能性が高い。


「そんな…あり得ねぇわ」


 まさかと思いポケットからファイヤースターターを取り出し、用意しておいた枯れ木の繊維に向けて金属製のストライカーとロッドを擦り合わせる。

 2度、3度、4度……。

 いつもなら余裕で一発だというのに、指先が震えて上手く火花が飛ばない。

 大きく深呼吸してから強くストライカーを滑らせると、すっかり宵闇よいやみに包まれた森に一際派手な火花が飛び散った。

 ほぐされた繊維は空気を含んでおり、いつものソロキャン同様に薄い煙を昇らせつつあったが、完全に火がつくまで入念に火花を放ち続けた。

 ほどなくして内部に小さな火種が複数出来上がった頃、息を吹き掛けると米粒ほどの火は大きく燃え上がったので、枯れ枝をくべながら火力を安定させていく。


「よし、もう十分だろう」


 本音を言うと確かめたい気持ち半分と、このまま知らないフリをしたい気持ち半分。

 だが、ここは確かめておかなければならない。

 スマホを持つ手は緊張で酷く冷たくなっていた。

 ゆっくりと画面を覗き込むとAwazonの通知欄には『初めての焚き火――5000ポイント』が記載されている!


「あ、あり得ねぇだろ!

 こんな…あり得るわけが…!」


 これは俺の…いや、常識の範疇はんちゅうを超えた事態であるという事を示していた。

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