頼りになる鬼娘
どうやら植生がホーム近辺とは違うのか、見た事もない植物があちこちに生い茂っている。
しかも珍しい鉱石まであるみたいだし、これは期待できそうだ!
到着するなりギンレイは河原の砂浜で、小さな魚を相手に狩りの練習を始めた。
浅瀬を逃げる小魚を追い立て、幼いながらも野生の本能を発揮させている。
「あしな、あしな! これ何?」
初音が持ってきたのは…ナニソレ、植物?
不思議な事に葉は一枚もついておらず、筒状の茎から複数の細い管が風もないのにユラユラと動く奇妙な姿。
一発目からエライ不気味なのを当てたと思い、気になって『異世界の歩き方』で調べてみるとハエトリカグラという食虫植物で、神楽の舞いを思わせる動きによって小さな虫を茎の中に誘い込み、入り口を閉じた後に粘液で溶かして食べてしまうらしい。
「…これは面白い植物だけど、虫除けならハーブでいいかな。つーか、夢に出そうだろ…」
申し訳ないが観葉植物として何よりも大切な見た目がエグ過ぎて、明らかに観葉に向いてない。
知りたい情報を得たので本を閉じて消すと、初音が目を見開いて熱い視線を送っていた。
「うおぉぉおお! ナニソレ!
どうやって書物を出したんじゃ!?
それ見たい見たい見たい見たい!!」
一向に調査が進まねぇ……。
俺は『異世界の歩き方』を手渡すと、初音はその場に座って一心に読み始めた。
これで大人しくしてもらえるだろう。
色々と気になるポイントが散見される中、先に岩壁の近くに落ちていた鉱石を調べる事にする。
触った感じ――かなり硬い上に所々が結晶化しており、砕けた物は内部が年輪に似た縞模様を形成しているが…これはメノウ石か?
『異世界の歩き方』は初音が使っているので判別できないが、恐らく間違いないだろう。
大小の物をいくつか選んで持ち帰る事にする。
「こっちの石は…面白いな。
見た目は軽石に近いけど…?」
拾っている最中、更に変わった石が目についた。
見た感じ白っぽい石で多孔質の特徴を持っているが、前日の雨で表面が濡れていた。
興味深い事に泡は石の内部から絶えず発生しており、恐らく異世界特有の物だと思われる。
かなり…いや、相当珍しい。
用途は不明だが、これも何個か持っていこう。
次に目を止めたのは竹であるが、ホームに群生している物とは全く別物みたいだ。
もう見た目からして不思議なのだが、この竹は節を一切持たず、一直線ではなく渦を巻くようにして伸びている珍しい物。
触ると横方向の撓みが通常の竹よりも少なく、かなりの剛性を有している事がうかがえる。
今すぐには使用できる用途を思い付かないが、手頃な長さの物を何本か持っていこうと竹を曲げるがビクともしない!
「……ッあ! はぁ、駄目か。
そうだ、こんな時こそ…おーい、初音。
ちょっと来てもらっていいか?」
名前を呼ばれて顔を上げる初音は何故か嬉しそうだ。
ここは鬼属サマの鬼パワーに大いに期待するとしよう。
「なになに? 何をしとるんじゃ?」
「この竹を曲げ……」
言い終わる前に初音は竹の根ごと、地面から引っこ抜いてしまう。
斧なんか要らんかったんや。
流石は鬼っ子の初音さんやでぇ…。
「あ…あぁ、ありがとう…」
「あしな! この書物は面白いのう!」
礼を言われた初音は満面の笑顔で再び本読みに戻る。
素直さと驚異的腕力を兼ね備えた恐ろしい娘さんだ。
この時、ギンレイの居る河原へと忍び寄る影に、まだ誰も気付いていなかった。