楽しいデイキャンプの始まり
「きゃんぷ! きゃんぷ行きたい!」
まず間違いなく言葉の意味は分かっていないだろうが、初音は未知の言葉に対して強い関心を持ってくれたようだ。
いや、俺にとってこの生活自体が遭難と言っても過言ではないのだがな…。
それはそうとして、彼女の気持ちを引きつつ良い感じに帰宅を促し、それに付いていく形で鬼属に保護される。
これこそ俺が異世界で助かる唯一の道!
そうと決まれば……。
「よしよし、今日は初級のデイキャンプをやってみよう」
「やったぁぁあああ! でい・きゃん!!」
なんとも子供のような喜びように微笑ましくなる一方、やはり騙しているようで若干の心苦しさを拭えない。
気まずい心中を悟られない為に、努めて明るく今日の概要を説明する。
「いいか、今回はホーム周辺の調査と食料の確保が目的だ。河原の下流域を歩いて夕暮れ前には帰ってこよう」
初音は遠足前夜の子供みたいに落ち着かない様子で何度も頷くと、待ちきれないのか俺の袖を引っ張って出発を促す。
ギンレイも鈴を鳴らして激しく尻尾を振り、一秒でも早く外に出たいらしい。
「ま…! ちょっと、落ち着~!」
そのまま引きずってでも進もうとする勢いの初音。
どうにか呼び止めて最低限の準備だけはさせてもらうが、思えばホームを見つけて以来、軽く見て回った程度で周辺の探索については全く手付かずの状況。
先に生活を安定させる為だったとはいえ、いずれホームの資源が尽きてしまえばゲームオーバー。
だからこそ、デイキャンと称して初音の関心を引き、周辺調査まで済ませてしまおうという一挙両得作戦である。
「ふっ、我ながら策士よのう」
にやけ顔を誤魔化そうと咳き込んでいたところで、初音に質問という名の情報収集を開始する。
「そうだ、家での暮らしはどうだったんだ?」
拾った小枝をブンブンと振り回す初音が楽しそうな声で答えてくれる。
「屋敷では不自由のない生活じゃったよ。
でも退屈じゃ! 毎日毎日、祈祷についての勉学や雅楽、退屈な書物を読み聞かされての!
いい加減、うんざりしておったわ」
「おお、そうなのか」
どうやら普段から厳しい家庭環境に不満を抱えていたようだ。
この辺りはどこの世界でも変わりはない。
でも祈祷というのは?
異世界では占いについての知識は必修なのだろうか?
「お父さんとお母さんの他に家族は居るのか?」
「おらん! ワシは九鬼家の一人娘じゃ。
本当は妹や弟が欲しかったんじゃがな、母上はワシが幼い頃に病で亡くなってしもうた…」
…しまったな、この話題は軽率だった。
反省すると共に急いで話題を変える。
「あー、そうだ! 帰ったら風呂にしよう!
歩き疲れた後の風呂は最高だぞ」
「本当か!? こんな山奥で風呂に入れるのか!
スゴいぞ、あしな!」
……あぁ、やっちまったよ。
でも地雷を踏んだ手前、なんか悪い事をしたみたいで気が引けたんだよな…。
風呂についてはアテがあるので、恐らく問題はないだろう。
あるとすれば残ったAwazonポイントか。
そうこうしている内に手頃な場所を見つけたので、早速採取を始める。
さぁ、周辺調査とAwazonポイントの為に、午後もしっかり頑張ろう!