タイトル回収
「聞かせてくれ!
お主が居た世界の事を、全部!!」
俺の肩に両手を乗せて激しく揺さぶる初音、その猛烈な勢いによって脳震盪を起こしかけ、意識が飛ぶ直前であっても質問が途切れる事はない。
「わか…分かったから……もう…ヤメ……死…死んじゃうから……」
必ず死ぬと書いて必死。
あと数秒遅れていたなら三途の川を渡っていたかもしれない。
ギリのギリッギリで助かったが初音の興奮は収まらず、荒い息で別世界への期待を膨らませていく。
「あー、その、なんだ…。
何について聞きたいんだ?」
むしろ聞きたいのは俺の方で、困っているのも俺の方なのだが…。
こうなっては仕方ない。
初音の質問に答える形で彼女との信頼関係を構築し、あわよくば鬼属に保護してもらおう等と考えていたのだが――考えが甘かった。
「おうとも! まずは別世界の日の本について詳しく教えてくれ!!
いや、まずはお主の正体じゃ!
どうやってワシらの世界に入った?
その懐に隠した黒い板が怪しい!
タテガミギンロウが彷徨く杜に刀すら持たず居着いておるんじゃ、その黒いのは別世界の武器なんじゃな!?
凄い!ワシにも見せて見せて!!」
矢継ぎ早どころではない。
マシンガン並みの早さで浴びせられる質問の数々。
その勢いは閉口してしまう程に凄まじく、初音の好奇心を強く刺激してしまったらしい。
まぁ、無理もないか。
俺だって目の前に異世界の人がいたら質問攻めにすると思うし、実際に初音には色々聞いたのだ。
しかし、このままではマズい…。
どうにかして会話の主導権を取り戻し、俺が助かる為の道を探らなければ。
尽きる事のない質問に曖昧な答えや相づちをしながら、俺は自分の正体とやらを真剣に考えていた。
…何と答えれば良い!?
『ソロキャンしてたら知らん内に異世界にすっ飛ばされてました』
…アカン、もっと興味を引いておく必要がある。
何故なら、恐らく初音は異世界で言う所の貴族の出身なのだろう。
だとすれば、『コイツは面白いから手元に置いておきたい』――そう思わせるのが上策なのだ。
子供みたいな初音を相手に騙すようで心が痛むが、こっちは何の頼りもなしに異世界に来てしまった以上、生き残る為に手段は選んでいられない。
意を決して初音が聞きたがる異世界へ来た目的を、さも重々しい雰囲気を醸し出して語り始める。
「よかろう…俺がこの世界に降り立った理由を教える。それは…」
「それは……?」
初音の純真無垢な瞳が一層輝きを増し、どんな言葉を耳にするのかと期待は膨らみ、否応なしに気持ちが昂っていく。
「それは……キャンプだッ!!」
一瞬の静寂、ギンレイですらホームに充満する異様な空気を察して息を飲む。
これは……やっちまったか!?
だって他に思いつかねぇじゃん。
異世界に来た俺に興味を持ってもらう話なんて考えても分かんねーし、知る訳ねぇよ。
自分でも困惑してしまう目的を聞いた初音の反応は、拳を握り締め、小さな体を更に縮めている。
その第一声は……。
「き…きゃんぷかぁ、なるほどのぅ!」
何が?
どの辺りが『成る程』なのか全く不明だが、兎に角初音の興味を引く事には成功した…らしい。
こうして、俺が異世界に来た目的、理由が誕生した事で更なる苦難を強いられる日々が始まるのだが、この時の俺にはまだ知る由もない。
あとがき
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。
ようやく物語の道筋を書くに至りましたが、まだまだ先は長そうです。
最初はタイトル通り主人公が時々独り言を口にする『孤独のグルメ』みたいな感じにしていこうかと思っていたのです…。
でも早い段階で多分、表現も内容も同じような感じになって詰む未来が見えていたので初音を登場させました。
彼女を軸に主人公が異世界からの帰還、あるいは帰化を達成するのが大筋の流れとなります。
このままだと折角のAwazonでの買い物も、主人公の堅実な性格で渋りそうな感じだったので、初音には物語の潤滑剤としての役割も持たせました。
これからも頑張って活動していきますので、よければ作品のブックマーク及びに評価を頂ければモチベーションに繋がります。
では、引き続き物語をお楽しみください。