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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!
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明かされていく異世界の謎

「うぅ…父上、母上、空腹に負けて世俗に染まる初音をお許しください……」


 大袈裟過ぎるだろ……。

 それでも初音はマジな葛藤にさいなまれているらしく、苦悶の顔つきでザリガニを口に運ぶ。

 小さな唇が小刻みに震え、今日まで想像もしてこなかった食材の味を体験する。


「どうだ? やっぱダメか?」


「…うぅ…あぁぁ……ワシは…」


 がっくりと肩を落とし地面に平伏ひれふす少女。

 その身なりから日々の食べ物に困窮している様子はなく、いきなり未知の食材であるザリガニを口にするのはハードルが高かったのかもしれない。


「なぜ…なぜ……こんな下手物ゲテモノを旨いと感じてしもうたんじゃあ~…。

 狂惑きょうわくじゃ! 神奈備かんなびもりなら追っ手から逃れる良い隠れみのになると思った…。

 そんな浅はかなワシに天罰が下ったんじゃあ~」


 神の贈り物であるザリガニがゲテモノとは心外な。

 しかしまぁ、口に合ったのなら幸いだ。

 それは置いとくとして初音が先程、涙ながらに語った言葉が気になる。


「なぁ、神奈備かんなびもりってここの事か?」


 ずっと疑問に思っていた。

 いや、よくよく考えてみれば俺は異世界こっちの事について何も知らない。

『異世界の歩き方』を読んだとしても、それは表面的な情報であり、この世界の住人から直接話を聞けるのなら絶好の機会といえる。


「そうじゃよ。

 このもりは伊勢のくにでも特に神聖な場所。

 不用意に立ち入るは鬼属きぞくであれ人間であれ、固く禁じられておる」


 俺は全身に電気が走るような衝撃を受けた。今、伊勢と言ったのか!?


「ちょっと待ってくれ! もしかして伊勢って所には大きな神社があるんじゃないか?

 その…とても古くて由緒ある場所が…」


 初音は質問に対して大きく頷くと、妙に自信に満ちた表情で答える。


「もちろんじゃ!

 日の本に御座おんざす八百万の神々を奉る神社かみやしろの中でも最高峰、伊勢の神宮が神代の刻からこの地を見守っておるよ」


 やっぱり!

 ここは日本、しかも三重県なのか!

 俺の母方の実家が三重県という事もあり、何度も訪れた思い出の土地。

 ここに飛ばされて以来、異世界だという事しか分からない状況が続いていたが、ようやく大まかな現在地が判明した。

 異なる世界…だけど、ここは日本なのだ!

 しかし、全く形態の違う動植物に加え、初音の言う鬼属きぞくという人達の存在。

 俺のよく知る世界とは、似て非なるモノだと考えた方が良いだろう。


「初音がさっき言ってた追っ手とは誰の事なんだ?

 お前もしかして…何か()()()()()のか?」


 必ず聞いておかなければならない。

 場合によってはトラブルに巻き込まれる恐れもあり、そんな事態は絶対に避けたいからだ。

 だが、俺の懸念を初音は一蹴する。


「そんな訳あるか!

 むしろワシは被害者じゃ!!

 父上が一方的に決めた望まぬ婚約に嫌気が差したのでな、とうとう城を飛び出してやったわ!」


 腕組みで仁王立ちする初音、こんな小さな子に婚約話を持ち込むとは…。

 まるで戦国時代の政略結婚だな。


「どこに逃げようか迷っておったが、神奈備かんなびもりなら隠れるのに最適じゃ。

 しかも獰猛で知られる野生動物の縄張りであり、タテガミギンロウまで出没するのでな。余程の理由がなければ鬼属きぞくであっても近付かんわい!」


 逆に自分が狼に襲われるとは考えなかったのか、それとも考える余裕などなかったのか。

 呆れた気持ちが半分、行動力への敬意が半分といった具合に、初音へ微妙な同情を示すと嬉しそうに話を続けた。


「そうじゃよ、39で結婚など早過ぎる!

 父上は何を考えておるのかのう」


 え………39歳?

 見た目は小学生にしか見えないが…。


「あの…お前の親父さんって歳いくつ?」


 質問の意味が分からずハテナ顔の初音は、それでも大して気にも留めず答える。


「父上の御年?

 確か今年で440歳だと思ったぞ」


 あー、そういう系?

 俺は初音の額から伸びる一本角を見ながら、腕相撲で負けた理由に納得するのだった。

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