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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!
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カワラムシャガニの蒸し焼き

 ベッドが完成する頃には日も暮れ、それに伴って腹も空いたので夕食の準備をいそいそと始めた。

 本日のメインディッシュはカワラムシャガニ。

 見た目もクールな食材で体長は20cmを超えており、大きなハサミが特徴的だ。

 調理法については少し迷ったがシンプルな蒸し焼きに決めた。

 その方が素材の味をより堪能できると考えたからだ。

 早速ダッチオーブンにカワラムシャガニと少量の水、適量の岩塩を加えて火に掛ける。


「もう食えるなら何でも良いや」


『カニ』と呼称されてはいるが見た目は大きなザリガニで、日本人には食べる習慣がないので少し抵抗があるかもしれない。

 しかし、欧米では割とポピュラーな食べ物――どころか、高級食材に分類されているのだ。

 さて、そろそろ食べ頃だろうか?

 閉じられたダッチオーブンの隙間からは蒸気が立ち上ぼり、そこから芳醇な……え?

 俺の脳内は過去に体験した食レポを検索し、該当する物を瞬時に導き出したのだが、意外過ぎる結果に驚きを隠せない。


「…………かに!?」


 んな訳あるかと、自分にツッコミを入れるが何度匂いを確かめても…カニである。

 一体、この中では何が起きている…?

 未だフタが閉じられたままのダッチオーブンは黒光りする鋳鉄ちゅうてつ製の鋳肌いはだをさらし、今や遅しと開封の時を待っている。

 革手袋を装着して恐る恐るフタを開けると、視界を覆う蒸気と共に真っ赤に茹で上がったカワラムシャガニが姿を現す。

 茶褐色だった甲殻は熱を加えられた事でさながら戦場に参陣した赤備えの如く、4匹の武者が槍を揃えて整列しているようだ。

 その様子に子狼も興奮を抑えきれないのか、しきりに俺の腹を前足で引っかき催促してくる。


「ちょっ、分かった! 分かったよ!」


 早速ダッチオーブンから取り出そうとカワラムシャガニを持ち上げたところ、不思議な事に甲殻がぼろぼろと外れ、あっと言う間に柔らかな剥き身が露出する状態となった。

 甲殻類は襲われた時や茹でられる等の危険を感じると、自身のハサミや足を自切する事でおとりにして逃亡するという防衛策を有しているのだが、異世界の生物であるカワラムシャガニは自慢の甲冑を脱ぎ捨ててしまうらしい。

 見るからにプリプリとした腹身は背中側に赤い筋が走っており、体長が20cmはあるので食い応えもありそうだ。

 幼い狼が火傷しないように息を吹いて十分に冷ましてから地面に置いてやると、それでも熱かったのか息を切らせて食らいつく。


「俺もいくぜ! 頂きまッす!!」


 『!?』 舌を通じて脳に送られるイメージ!

 マジに蟹だよ…こんなん嘘やん……。

 信じられん…だが、この食感と深い味わいは間違いなく蟹。

 見た目はザリガニなのに中身はカニという不可思議な食材は衝撃を受ける程で、あっさりと河原で採れる旨い物ランキングを更新してしまった。

 そして、蟹と違って面倒な殻剥きも不要という、まさに美味しく食べられる為に存在しているようなものじゃないか。


「加えてこの海老味噌!

 ちょっと考えられないぞ…量は決して多いとは言えないが、それを補って余りある濃厚な味!」


 一口含めただけで言葉では表現しきれない濃密な味の情報が、ダイレクトに神経を伝わり脳を支配してしまう。

 手がッ止まらない!

 こんな神の贈り物としか思えない生き物が、こんな近くに生息していただなんて!

 明日から三食ザリガニでもいいかなぁ、そんな事を考えていたら完食してしまった。

 見れば狼も大いに気に入ったらしく、残った殻に目をつけると何度も吠えて要求してきたので、冷ましてから食べさせる。

 そして、また熱さに悶えながら喜んで食べるのだが…学習しないのか君は。

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