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そして悲劇は繰り返す

「おおおおおおああああ!!」


 高速で飛来したのが拳なのか、それとも蹴りだったのかは判然としない。

 唯一にして確実に断言できるのは、当たったら()()()()という事実だけだ。

 僅かに気づくのが早かった結果、ギリギリのタイミングで回避が間に合う。


「この……大馬鹿女!」


 自分でも不思議で仕方がない。

 どうして俺は兼宗カシュウの為に泣いてるんだ?

 かすっただけで致命傷に至る攻撃が嵐の如く吹き荒れる中、俺の抱えていた感情は怒りや恐怖よりも、哀れみであった。


兼宗カシュウ…貴様は本当に…」


 隣で攻撃を避けていた初音も同じ感情を抱いたのだろう。

 復讐に燃えていた熱が急速に収まっていくのを感じ、安堵と共に一抹いちまつの不安も芽生えていた。


「くっ! コイツの攻撃は確かにエゲツないけど、行動パターンは単純だ。散らばって撹乱かくらんするぞ!」


 俺達は一斉に三方向に分かれると、思った通り兼宗カシュウは標的を絞りきれず、明らかに攻撃の精度が下がった。

 らぬ方向に触手を突き出し、天守閣てんしゅかく全体を破壊する勢いで暴れ始めた際、一瞬の隙が生じたのを見逃さない。


「今だ、ギンレイ!」


 おぞましい触手の群れをい潜り、胴体と思わしき肉塊にくかいを鋭い爪が一閃する。

 深々と切り裂いた傷口から鮮血が吹き出し、本来の機能を失った口から慟哭どうこくが漏れ出た。

 手痛い反撃を受けた兼宗カシュウは八つ当たりのように滅多矢鱈めったやたらに周囲を壊し始め、地上で戦っている兵士達もようやく異常に気づいたらしい。


兼宗カシュウよ、なんと哀れな…。

 お前は最後まで好きになれなんだが、鬼属きぞくとしての誇りは誰よりも高かったというに…」


「初音!? 一人では無茶だ!

 すぐに応援が駆けつけるから、それまで待て!」


 飛来する触手を腕力で弾いた初音は、俺の忠告を無視すると一直線に駆け寄り、肉塊にくかいへ向かって連打を叩き込む!

 城全体が激しく震える程の攻撃は流石に効いたのか、大きく身をよじって回避しようとした直後――。


「な…にぃ!?」


 足元のかわらを突き破って繰り出された触手によって、初音は腹部を貫かれて重傷を負ってしまう。

 甘かった…まさか、こんな知恵が残っていただなんて…!


「は、初音ええええ!」


 Awazonで購入したホワイトガソリンを缶ごと放り投げ、ZIPPOライターで火をつけてやった。

 地鳴りにも似た悲鳴がとどろき、周囲に形容し難い嫌な臭いが立ち込める。

 だが、そんな事はどうでもいい!

 俺は初音が倒れた場所まで走り、小さな体を抱き起こすが――。


「はつ……だい、大丈夫だ!

 傷は…浅い……浅いに決まってる!

 だから…だから気を強く持て!」


「は…は、どこかで…聞いた台詞せりふ…よな」


 出血が酷い…。

 血が止まらない!


「ギンレイ、少しだけ時間を稼いでくれ!」


 即座に背後へ回り込んだギンレイは相手の注意を引き付け、みずからをおとりにして兼宗カシュウを遠ざけた。


「い、今……くす…薬を…」


 手が震えてしまい、何度も操作をミスってしまう。

 ゆっくりと広がっていく血溜まりが、失われていく体温が、俺をますます追い詰めていく。


「落ち着け…お主…らしくもない」


「お…前…バカだよ。

 落ち着いてなんか…いられるもんか…」


 泣いている場合ではないのに涙が溢れてくる。

 どうしようもなく、手の施しようもなく…。

 認めるしかなかった。

 初音が――致命傷を負ったという事実を。


「あ…し…」


「もうしゃべるんじゃない!

 分かってるから、全部…後は俺に任せろ!」


 ギンレイの悲鳴と共に、兼宗カシュウという名だった化け物が背後に迫る。

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