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たとえ悪女と罵られようとも…

「どう考えても…おかしいだろ。

 なぁ、静か過ぎると思わないか?」


 俺達はギンレイの五感を頼りに天守閣へ繋がる階段を登っていたが、ここまで一度も敵に遭遇せずにいた。


「殆どの兵を城の防衛に回しておるのじゃ。

 城内に敵がおらぬのは自明であろう」


 初音の反論はもっともだが…。

 けど、やっぱり妙な違和感を拭いきれない。

 普通は戦況を報告する伝令とか、負傷者を運び込む救護係りが駐在しているんじゃないのか?


「いや、ここまで無人なのは逆に…」


 言い掛けている内に、とうとう天守閣てんしゅかくまで来れてしまった。

 流石に誰か居るに違いない。

 だが、俺の目に飛び込んだのは意外過ぎる光景だった。


「なぁ…!? あぁ……う、うそ…だろ…」


 血の海!

 そこは20人近い人間が物言わぬしかばねと成り果て、地獄のような光景が広がっていた。

 更に、その内の一人…いや、二人は見覚えがある。

 腹部から血を流し、苦悶くもんの表情で絶命している甲賀こうが藤九郎とうくろうと――。


兼宗カシュウ

 やはり、ここにいたか!」


 俺は未だ自分の目が信じられず、指を差したまま言葉を探していた。

 すると、兼宗カシュウは夕涼みでもするかの如く、事も無げに言い放つ。


「猿はおのが目で見たものも信じられぬのか?

 ここでえずくのだけは控えよ。

 ころもに臭いが移るのでな…」


 相変わらず傲慢ごうまんが服を着たような物言い。

 まるでゴミか虫を見る冷たい視線。

 全てが不快で、二度と会いたくないと思わせる女。


「これを…やったのはお前か!

 お前は一体、何が目的なんだ!?」


 兼宗カシュウは興味のないモノを見る目で藤九郎とうくろうの顔を踏みつけ、ボール感覚でもてあそぶ。

 あまりにも背徳的な光景に、背筋が凍りつく思いを味わう。

 奴はどう答えればいいのか、それとも答えそのものを口にするか考えている様子だったが、藤九郎とうくろうの頭を蹴り飛ばすと弾かれたように()()()()


「ふ…くっ……はははは!

 よもや半端者と猿相手に胸中を語ろうなどと…。

 否、最早もはやどうでもよい。

 知りたくば教えてやろう、わらわの本懐をな」


「本懐じゃと!?

 父上を亡き者にし、熊野を乗っ取るのが狙いであろう!」


 怒りの沸点が上がりきっている初音。

 しかし、兼宗カシュウの目にはもう、誰も映ってはいない。

 秘められた想いが血の臭いと共に、うつろな空間に満ちようとしていた。


わらわの本懐は――澄隆すみたかの心を取り戻す事…。

 ただそれだけ、それさえ叶えられれば…わらわは悪女とののしられようとも、命尽き果てようとも構わぬ!」


 悲恋と激情。

 表裏一体でありながら、相反する二つの感情を目の当たりにして、俺も初音もただ聞き入る事しかできなかった。

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