鬼ヶ城、攻略戦
勢いに乗る愚連隊と共に鬼ヶ城へ乗り込むと、本丸の虎口では澄隆公を筆頭に鬼属と忍者が激しい戦いを繰り広げている真っ最中。
相手も必死の抵抗を続け、流石に攻めあぐねているようだ。
「野郎共! 抜け駆け連中に美味しいところ持ってかれんじゃあねぇぞ! 特攻めやあ!」
後発隊の先頭に立った万治郎は鬼と人の混成軍を率い、敵の側面に目掛けて突撃を敢行する。
先発した鬼属部隊と交戦していた忍者は怒濤の勢いに浮き足立ち、あっと言う間に戦線は崩壊した。
「城内の敵は伊賀者ばかり。どうやら、上手い具合に裏をかいたようですな」
「左様。それにしても御子息の勇猛ぶり、実に目を見張るものがありますなあ! 親子共々、人間にしておくのが惜しいくらいで御座る」
息子の活躍を誉められた八兵衛さんは顔を赤く染め、珍しく落ち着かない様子。
紋七は上陸前に自力で功名を得ようと焦っていたが、万次郎を始めとした若者の台頭に目を細め、後方からの指揮に専念するつもりらしい。
「操られた鬼属兵士が極端に少ないのは本当に幸いだったな。どうして城の防衛にあたらせなかったんだろう。兼宗は何を企んでると思う?」
「恐らく、ワシらが陸路から攻めてくると思うたのじゃろう。まさか自分達が城を落とした二日後に、丸裸の船で海路から来るとは予想しておらんかったはずじゃ」
鬼属武者の無謀を見誤ったというワケか。
「いや、マジに危なかったけどな…」
もしも人間大砲という奇策がなかったら、あのまま海の藻屑になっていたかもしれない。
そう考えると背筋がゾッとする思いだ。
「こうして万次郎達が本丸を攻めておる今の内に、ワシらは裏口から城内に侵入する。奴は…兼宗は天守閣に居るぞ!」
初音の瞳が見た事のない色に染まっていく。
母の敵を討とうとする復讐の色に…。
多分、止めても一人で行こうとするだろう。
「城の構造に詳しいと言ってたな。
俺も兼宗に殴られた仕返しをしたいからさ、付き合ってやるよ」
ギンレイも同意を示し、元気に吠えて尻尾を振っている。
初音自身、行くのを反対されると思っていたのか、逆に同行すると言われたのは予想外だったようだ。
驚いたり紅潮させたりと、様々な表情を代わる代わる浮かべ、最後に選択したのが見え見えの強がりだった。
「ふ、ふん! お主らも酔狂よな。
それならば勝手についてくるがよい」
「へぇへぇ、行こうかギンレイ」
ギンレイは俺の生返事とは対照的な声を返すと、騒然とした戦場を横目に、件の裏口へ向けて歩きだした。