反攻という名の砲弾
「無事だったか葦拿!」
八兵衛さんや紋七は全身に傷を負いながらも、負傷者の救助や操船で多忙の極みに陥っていた。
「そんなのはどうだっていいんです!
それより、火薬は手に入りました。 砲手を…大砲を撃てる人員を確保してください!」
八兵衛さんは驚いた顔で俺を見つめるが、すぐに首を振って提案を拒否する。
「言ったであろう。
弾薬があっても砲弾はない!
だから反撃は――お主、まさか…」
自信に満ちた表情から察したのか、彼は向き直ると毅然とした態度で伝令を飛ばす。
「全兵員に告げる!
手の空いている砲手は船室に集まれ!
船首におられる大殿にも急ぎ伝えよ!」
即座に集まった首脳陣と鬼属兵士達に、反撃に転じる計画を打ち明ける。
この時、俺は問答無用でブン殴られる覚悟で口にしたのだが――。
「…ふっ……はは…はーはははは! これはよい、実に儂ら好みの作戦ではないか!」
真っ先に同意してくれたのは誰よりも慎重であるべき人物、鬼属領主の澄隆公その人だ。
次いで侍頭の紋七が大爆笑しながら俺の頭を撫で回す。
正直、生きた心地がしない…。
「あの…自分で言っといてなんですが、本当にやるんですか? 上手くいく保証もない上に、マジに犬死するだけかもしれないんですよ!?」
彼らが余りにも乗り気だった為、逆に不安な気持ちが勝りつつあった。
しかし、背後に立つ矢旗親子が力強く後を押す。
「構わぬ。敵方の砲弾が直撃すれば斬り結ぶ機会すら得られず、みな魚の餌と成り果てるのだ。ともなれば、派手に散るのも一興!」
「当方はアニキを信じてるからよ、きっと楽しい喧嘩にしてくれるってなあ!」
矢旗親子の全面同意によって、萎えかけていた兵士達の戦意が爆発的に膨れ上がっていく。
こうなれば迷っている暇はないだろう。
「…なら、合図したら大砲の場所まで行こう!
3……2……1……今だ! 走れ、走れええ!」
合図と共に全員が一気に走りだし、船首に設置された砲台に集まって、砲撃の準備に取り掛かる。
「急げ急げ!
奴らに一泡吹かせてやろうぞ!」
「くくくっ、予想もしておらぬだろうな!」
嬉々として慣れた手つきで黒色火薬を詰め込み、弾丸となる澄隆公を砲身に入れる。
今さらだが強く思う――おいおい、マジにこの作戦は成功するのか!?
「父上、御武運を!」
「初音姫、父の勇姿をとくと見よ。
其方は名を葦拿と申したな?
よくよく覚えておくとしよう」
どっちの意味で?
帰ったら殺してやるという意味でない事を願い、大砲に火をつける。
「発射!!」
轟音と共に一発の弾丸が高々と撃ち上がり、皆はロケットの発射を見届ける心持ちで彼の無事を祈る。
「砲手は射弾観測を怠るな!
着弾と同時に次の装填を急げ!」
今さっきブッ飛ばしたのは、君らが慕う城主サマなんやで?
そんなツッコミすら笑い飛ばす鬼属兵士。
澄隆公の頑丈な肉体を砲弾に見立てた作戦だったが、実の娘である初音でさえ、彼の無事と武勇を確信している様子。
「城の中腹に大殿が着弾!
お、おお……素晴らしい!
一番槍の大戦果を挙げておりまするぞ!」
澄隆公は石垣を崩落させる程の攻撃を次々と繰り出し、瞬く間に敵兵士を薙ぎ払うと、砲台が並ぶ広場を制圧してくれた。
作戦は大成功だ!
「流石で御座います、父上!」
まさに天を衝く程の歓声が上がり、我先にと砲に身を投じる鬼属達。
敵陣の中枢に直接投入された最強の軍団は、あっと言う間に内外の掘りまで攻略し、砲身に収まらない体格を持つ紋七や他の兵士達が彼らの活躍を羨む。
「ええい、こうしてはおれん!
急ぎ船を接岸させい! このまま指を咥えて見ているだけなど、末代までの恥ぞ!」
紋七の号令によって船は急加速を始め、殆ど衝突する形でついに接岸を果たした。
「あ、荒っぽいのう。あしな、ギンレイ!
用意は出来ておろうな?」
「ああ、もちろんだ!」
続々と上陸する皆を追って、俺達も最後の戦いに臨む。