いざ、最後の戦いへ
目的はゴえもんの敵討ち――ではない。
兼宗を止めなければ、異世界で知り合った人達がいずれ不幸な目に遭うのは分かりきっている。
ただ純粋に、それだけは避けたかったのだ。
「今度こそ母上の敵を…!」
もし心配事があるとするなら、初音は俺とは真逆の思惑で対峙しようとしている点だろう。
恐らく、初音生存のキーマンは兼宗の生死にかかっていると見て間違いない。
ゴえもんは女媧様がAwazonのセキュリティを壊して、シナリオの一部を改竄したと言っていた。
この僅かな隙間をもっと広げろと――。
だとするなら…。
「あしなよ、なにを呆けておる。
もう港は目の前ぞ」
「あ、あぁ…」
考え事をしている内に到着したようだ。
停泊していた黒船は高々と黒煙を上げ、意気揚々とした鬼属の兵士達によって資材は運び込まれ、万全の態勢が整えられていた。
既に点呼を終えた者から続々と船に乗り、鎧兜を身に着けて戦いに備えている。
「驚いたな、随分と手際が良いじゃないか」
「当然じゃろう。なにせワシらの祖先は海賊だったらしいからのう。操船も含め、海上での戦いならお手の物じゃ」
しかしながら、西班牙村の防衛を考えると戦闘に参加できる鬼属兵士は総勢で50人にも満たず、堅牢で知られる鬼ケ城を1隻の船で攻めるには流石に心もとない。
だが、軍勢を主導する澄隆公と侍頭の紋七は強気な態度で戦いに臨む。
「我らの城へ還ろうというのに、こそこそと裏へ回る必要などない! このまま正面から斬り込むのみ!」
鬼の首領が鬨の声を上げると鬼属兵士は一斉に歓喜し、もはや止める手立てさえなかった。
「…仕方がない。お前はここに――」
「残るわけがなかろう。
父上は未だ兼宗への想いに囚われておる。ならばワシ自ら、奴の首を獲るまでじゃ!」
自信満々で船へと乗り込む初音。
ギンレイも心配そうな素振りで後を追い、俺は胸騒ぎと不安で押し潰されそうな思いだ。
「まぁ、お嬢ならそう言うだろうぜ。
三平太、留守は頼んだぞ」
「万治郎さん……あしな兄さんもお気をつけて!」
万治郎は事前に三平太を始めとした年若い者を選別していたらしく、腕の立つ少数精鋭を船に乗せた。
そうだ、もう女媧様もゴえもんも居ないのであれば、致命傷を負っても治す手段はない。
覚悟のある者だけが乗船する事を許される。
「…………ゴえもん、見ていてくれよ…」
俺は大きく息を吸い、震える足に気合いを入れて足を踏み入れた。
程なくして港を出発する黒船。
一体、何人が生きて帰れるのだろうか…。
――いや、昨日の激戦でゴえもんは誰一人として死なせずに戦いを終えた。
彼のクローンである俺にだって…。
「誰も……誰も死なせねぇ!
もう俺しかいないんだ、初音を守れるのは!」