表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
285/300

託された想い

 翌日、死ぬほど酒を呑み続けた俺は路上で目を覚ますと、無意識に辺りを見渡す。

 散らばった空の酒瓶は明らかに宴会の参加者よりも多く、誰もが忘れ難い出来事を無理にでも追いやろうとした結果に思えた。

 同じく路上で酔い潰れていた面々の中に、俺が探す人物はいない。


「夢……だったら、なぁ…」


 俺が起きたのを知ったギンレイはすぐさま駆け寄り、飼い主よりも大きくなった体でじゃれつく。


「おいおい、もう子供の時みたいに持ち上がらないよ。

 初音と飯綱いずなを探すついでに散歩しよう」


 白亜はくあの白壁が並ぶ建物の間を歩き、海の向こうにある西班牙すぺいんを再現した町並みに感嘆の息をもらす。

 輝く太陽が純白の壁を照りつけ、美しい港が華を添える。

 ちょっとした海外旅行気分に浸っていると、桟橋さんばしの先端に見間違えようのないシルエットが浮かんでいるのを見つけた。


「おはよう、飯綱いずな


「……おう」


 絵に描いた仏頂面で挨拶とも呼べない返事をされたが――まぁ、今日だけは許してやろう。


「もうとっくに六月なんだよなぁ。

 異世界にも梅雨ってあんのか?」


「…うるせェな、どっかいってろ」


 反抗期の娘みたいな事を言われてしまった。

 それでも話題を変えて食い下がる。


「海、超キレーだな!

 テレビで観たハワイみたいじゃん。

 昔の日本もこんな感じだったのかな?」


「…………チッ!」


 だんだん相手にされてないナンパ男の気分になってきた…。

 今にも折れそうな心を奮い立たせ、会話の糸口を探る。


「宴会の料理、どれも旨かったよなぁ。

 飯綱いずなはどれが一番だった?」


「……食ってねェよ。

 食う気に……なれなかったから」


 特大の地雷を踏み抜いた俺の心は砕け散り、あまりの不甲斐ふがいなさに思わず泣いた。

 近くにいたギンレイが悲しげな声で心配してくれたのが唯一の救いだ。


「…お前、本当に似てねェンだな。

 ――はぁ、馬鹿共になンざ付き合ってらンねー」


「あ、おい! どこ行くんだよ!」


 飯綱いずなは黒い翼をひるがえすと一息に飛び上がり、海の向こうへと行ってしまった。

 伸ばした手は何も掴めないまま行き場を失う。


「見事なフラれっぷりじゃったのう」


「うげぇ! い、いつから…?」


 初音が呆れた顔で背後に立ち、哀れみに満ちた目で俺を見ていた。


「海、超キレーだな! の、辺りかのう。

 お主、『てーぶるとーく』下手か?」


 どうして落ち込んだ人にそんな酷いことが言えるのか理解できない。

 傷口に塩を塗られた俺はますます落ち込み、桟橋さんばしの隅でギンレイを抱えて丸くなるしかなかった。


「アホな真似をしておる暇などないぞ。

 すぐに黒船のあった港へ来いとの事じゃ。

 父上が城を取り戻す準備を始められたのだ」


澄隆すみたか公が?

 そうか、ゴえもんが皆の負傷を治してくれたもんな」


 起き上がった俺の胸中に、ゴえもんの最後の言葉が響く。


『初音を頼む』


 ゴえもんが消えてしまったのなら、飯綱いずなの協力は望めないかもしれない。

 だとすれば、俺が初音を守るしかないじゃないか。


「行こう、兼宗カシュウと決着をつけに!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ