立ちはだかる赤鬼
「この戦場で大いに戦功を立ててみせよ、ギンレイ!」
初音は再びギンレイに乗ると襲い来る集団を蹴散らし、単独で煉瓦倉庫を目指そうと試みる。
それを見たゴえもんが珍しく焦る。
「いけねぇ、嬢様の悪いトコが出ちまった!
旦那達は先に行って護衛を!」
「ゴえもん!?
まさか…一人で残るつもりか!」
彼の懸念は分かっている。
異世界の強制力は既に死亡しているはずの初音を予定通り消す為、どのような手段でも使ってくるだろう。
考えてみれば今の乱戦など格好の展開だ。
現に初音の顔を矢が掠めるたびに、寿命が縮む思いを味わう。
「あっしらの目的…約束を忘れんな!」
奪った刀で追いすがる忍者を斬りつけ、狭い通路で仁王立ちするゴえもん。
向かい合う先には操られた鬼属の兵士まで現れ、とてもではないが一人で抑えきれるとは思えない。
「行けってンだ!
長くは持たねェぞ!」
飯綱は上空から拳銃型の転移装置を撃ち、敵の集団をまとめて消し去っていく。
どちらの背中にも決死の覚悟が漲り、揺らいでいた俺の弱い心を奮い立たせた。
「すぐに戻る。
それまで……死ぬんじゃないぞ!」
後部に澄隆公を乗せたバギーは入り組んだ路地を抜け、程なくして場違いだと思えるように穏やかな海が視界に入った。
周囲の建物も華美な装飾を省き、武骨で丈夫さを追求した物へと変わっている。
ようやく倉庫群に着いたと同時に、散開していた特攻服の一団から、見覚えのある少年が駆け寄ってきた。
「あしな兄さん! それに城主様まで…すげぇや、修験者様の言ってた事は本当だった!」
「三平太!? 君まで戦いに参加していたのか。それより万治郎はどこにいる?」
局地的に数で勝る愚連隊は徐々に倉庫群を占拠しつつあったが、部隊を率いているであろう万治郎の姿は未だに見えない。
「それが…港で船をブン獲ろうとしたら、化け物みたいに強い鬼属が…。万治郎さんはコイツは俺がやるって…」
「アイツらしいな。
この先でゴえもんと飯綱が戦ってる。
愚連隊の皆は二人を助けてやってくれ」
三平太はお手本みたいな返事をした後、散らばった集団をまとめて路地へと入っていった。
後方の憂いを対処した俺達は港に辿り着くと、全身の毛を逆立てて最大級の警戒を示すギンレイに、緊張した面持ちの初音を見つけ出す。
「あの者は……間違いない。
葦拿といったな、お前の連れは最早助からぬ。
ここは儂が引き受ける故、お前は初音と共に下がれ」
澄隆公が見据えた先に居たのは、鉄板を貼り付けた黒船を守る鬼属。
武将然とした朱色の鎧兜を身に纏った巨躯に、巨大な鋼鉄の鎚を持つ姿は昔話に登場する赤鬼そのもの。
対峙する万治郎は気力こそ十分ながらも満身創痍だ。
「鳥羽 紋七、九鬼家の侍頭を務める男なり!」