スペイン村の攻防戦
「まぁ……積もりそうな話はこの辺で~♪
ほらほら、御嬢はもうあんな所まで走ってますぜ。追っ掛けなくていいんですかい?」
見れば初音はギンレイの背に乗って無双状態に突入していた。
並み居る兵士達を蹴散らす表情は実に生き生きとした活力に満ち、少し前まで落ち込んでいたのがウソみたいに充実した様子。
「アイツは野生児かよ。
やれやれ、それなら俺達も参加しますか。
異世界の国盗り合戦にさ」
非日常が常態化してしまった影響なのか、普通ならトンズラ一択の緊急事態もコンビニ感覚でしかない。
俺もいよいよ精神面まで人間を辞めたってトコかな。
「上等じゃねェか、バカ騒ぎに乗り遅れンなよ!」
飯綱は漆黒の翼を広げると朝日差す大空へと舞い上がり、あっと言う間に見えなくなった。
拠点の兵士達は内と外から突然現れた相手に動揺してしまい、組織的な抵抗が出来ずにいるようだ。
防御を崩すなら今をおいて他にない。
「まっしぐらに突っ込む! 乗れ!」
スマホからバギーを呼び出すとゴえもんを後部に乗せ、混乱真っ只中の門へ突貫する。
エンジンが鋼鉄の息吹となって唸りを上げ、幾多の剣林で築かれた囲いをものともせずに突っ込む。
「折角の祭りだ、派手にいきやしょうぜ!」
ゴえもんは懐から大量の閃光手榴弾を取り出すと、鉄砲を構えた一団へ手当たり次第に投げまくった。
未知の物体について何も知らない異世界人は、その身をもって知る事になるだろう。
数秒後、足元に転がった兵器は一斉に眩い光と爆音を轟かせ、無防備な兵士達の五感と判断力を根こそぎ奪った。
「物騒な銃を人に向けんな!」
『時速80km以上で二人乗りバギーに跳ねられると、鎧冑を装着していても普通に怪我する』
検証不可能だと思われたトリビアを得た俺達は、鉄砲を捨てて逃げ惑う兵士を散々に追い散らすと、澄隆公を先頭にして煉瓦倉庫を目指す。
まさに鬼神の如き強さで敵を完封する澄隆公は圧巻ともいうべき活躍を見せ、腰に帯びた太刀など飾りとでも言いたげに、徒手空拳で人間も建物も区別なく破壊していく。
チート級の相手に業を煮やしたのか、正面から戦うのを諦めた忍者は狭い場所に俺達を引き込み、弓やクナイを使った遠距離戦法に切り替え、尚も戦闘を続行する気だ。
「小癪な!」
「下がってください!
困った時はAwazonで――」
急いで購入したのはライフル弾も弾く防弾盾。
機動隊が持っている巨大なアレである。
二枚の盾を俺とゴえもんが手にして矢面に立つが、忍者達はお得意の機動力を武器に、四方八方から現れては容赦ない攻撃を加えてくる。
「次々と敵が湧いてきよる!
万治郎と合流せねば、いずれ物量で押し潰されるぞ」
初音の指摘通り、相手は名うての忍者集団。
不意討ちで混乱させたとはいえ、これだけの多勢を相手にすれば長期戦は圧倒的に不利。
しかし、土地勘のない場所でこれだけの乱戦を演じてしまうと、現在地を把握する事すら困難だ。
その時、上空から声が届く。
「そのまま奥の小道に入って突き当たりだ。
そっから海を右手にして進め!」
「飯綱!」
直後、空から投下された閃光手榴弾によって一時的に攻撃が緩んだ隙に、俺達は雪崩を打って小道へ飛び出す。
こうなったら飯綱のナビゲーションだけが頼り。
西班牙村を舞台にした大乱闘は、今まさに最終局面を迎えようとしていた。