表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/300

逃亡先の拠点は…

「…そんな…くすぐったい……お江さん…」


 甘い一時ひとときは雷鳴じみた衝撃と共に突然の終幕を告げ、後に残されたのは触れるのもはばかる大きさのタンコブのみ。

 嗚呼ああ、せめて夢の中だけでも会いたかった…。


「どうじゃ寝坊助ねぼすけよ。

 起き抜けの挨拶は気に入ったかの?」


 初音は青筋を立てた笑顔のまま拳を握り締め、今にも追撃してきそうな気配をみなぎらせている。


「アッハイ、ありがとうございました…。


 言えねぇ…。

『なんで怒ってるの?』とか、とてもじゃないけど言える雰囲気じゃねぇ…。

 後から到着した面々は巨大なタンコブで全てを察したのか、哀れみを含んだ目で俺を見ている。


「それにしても未来の技術か。

 原理とか全然分かんないけど、神奈備かんなびもりにあった飯綱いずなのラボと同じなのかな?」


「厳密には違うんですがね、似たようなモンでさぁ」


 光のカーテンとも言うべきゲートから姿を現したゴえもんは説明をはぐらかした。

 多分、詳しく話したところで俺には到底理解できないと知った上だろう。


「さてさて、上手い具合にお日様も顔を出しましたなぁ。ほら、こっちでさぁ」


 そういえば俺達はどこに飛ばされたんだ?

 ここは先程の原っぱではないように見える。

 全くの異邦人である俺には現在地の予測すらできずにいた。


「しかも、いつの間に朝日が…。

 なぁ、あれから大して時間なんて経ってなかったよな?」


「言われてみれば…。

 じゃが、衣服の乾き具合からして数時間は経っておろう」


 ボートからの上陸時にズブ濡れた衣服は完全に乾き、かなりの時間が経過していた事を示す。

 井戸に飛び込んだ俺の意識は直後に途絶えており、それより少し前に目覚めていた初音にも分からないらしい。

 後ろを歩く澄隆すみたか公も驚いた顔で周囲を見渡している事から、古井戸を使った未来の移動では一定の時間が経過すると考えて間違いないだろう。


「とりあえず前に進めば道なんてのは開けるもんでね。

 これがその証拠ですぜ」


 前に進み出た彼は、背の高い草で覆われた一角を強引に押しやると、開かれた視界によって晴れ渡る空と青い海が俺達の視線を釘付けにする。


 ――そこからの眺めは一生忘れられない。


 高台に居た俺達は立ち昇る朝日を背に、眼下に広がる美しい白亜の港町が放つ輝きにしばしの間、時を忘れて見惚れてしまう。

 太陽を迎えた大海原は夜空の星々よりも眩しくきらめき、複雑な地形に分布するいくつもの島々をまばゆく照らしだす。


「ここは見覚えがあるぞ…。

 英虞あご湾だ! 熊野から志摩まで一瞬で移動したのか!」


「ちぃとばかし一計を案じやした。

 城を占拠する甲賀こうが藤九郎とうくろうは、あっしらが逃亡の末に井戸へ身投げした事実を信じられず、血眼ちまなこになって近辺を探すでしょう。そこを逆手に取り、熊野の隣にある港に出て追跡をかわし、そこを拠点にして城を奪い返す腹でさぁ」


「うむ、見事な策なり!」


 ゴえもんという男、一体どこまで切れ者なのか…。

 妙な感覚だけど、彼が味方で本当に良かった。

 そうでなければ、無勢の俺達が苛烈な追跡から逃げ切るどころか、反撃に転じるなど無理な話だっただろう。


「志摩にこんな場所があったのかや!?

 すごい! まるで伊太利いたりあみたいじゃ!

 父上、早く行きたいです!」


 異世界日ノ本ではお目に掛かれないであろう、情緒ある異国の町並みに初音は大いに興奮している様子。

 しかし、飯綱いずなは鋭い声で警告を促す。


「だっから~お前はお子ちゃまなのさ。

 ゴえもんの計画は()()()()の話でよ、問題が一個だけ残ってンだわ」


「問題だって?」


 渋い表情のゴえもんを横目に、飯綱いずなは事もなげに口にした。


「あの港、もう甲賀の連中に落とされてンよ」


 恐ろしい情報を耳にした俺達は一斉に振り返ると、町のあちらこちらから薄い黒煙が立ち、普段なら多くの船が停泊しているであろう港は、一隻の軍艦らしき船しか見当たらない。


「な……に? 出鱈目でたらめを申すな!

 西班牙すぺいん村は熊野における海外貿易の拠点ぞ!

 ゆえに、何重もの強固な防衛策と鬼属きぞく兵士を――」


 澄隆すみたか公は口にしている途中で気づく。

 そう、ここも熊野の鬼ヶ城と同様、鬼涙石きるいせきによって拠点を守る兵士は無力化されてしまった事に…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ