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あしなの誓い

 ゴえもんが話した内容はどれも信じがたい物ばかりで、俺の持つ価値観や存在意義を根底から覆してしまったような――ある種、喪失感にも似た感情から抜け出せず、ただ呆然としていた。


「俺が…………ゴえもんのクローン?

 それに…初音やギンレイもプログラムだと?」


 以前、関宿で初音が見たという女媧ジョカ様の最後を思い出す。

 つまり、与えられた役目が違うというだけで、異世界に存在する全ての物が幻だとでもいうのか?


「頑張ってきた毎日も、頼りにしてきたAwazonも虚構…。俺も――造り物…」


 全身から力が抜け、立ち上がる気力もない。

 離れた場所でひっそりと涙を流しても、悲しみや絶望でさえ決められたプログラムに従う意思のないモノのように感じてしまう。


「元の世界に戻っても…まともな生活は…。

 もう、帰る場所も…なくなっちまったよ…」


 俺は死ねない体のまま、永遠に異世界を彷徨さまよい歩くのだろうか?

 そんなのまるで――。


「今宵は一段と腑抜ふぬけておるのう」


「うわぁ! …な、なんだよ!」


 背後から突然声を掛けられ、絵に描いたように挙動不審キョドってしまった。

 初音にだけは落ち込んだ内心を悟られたくなくて強気な態度を取ったのもつか、速攻で鋭い指摘が飛んでくる。


「おやおや~、どうしたのかのう?

 あしな殿の様子がなぁ~~んか妙じゃ。

 隠し事の匂いがプンプンするわ。何があった?

 ほれ、初音お姉ちゃんに言うてみよ」


「アホか! それどころじゃあ…。

 お前の方こそ、親父さんとの話は済んだのか?」


 コイツとの長い付き合いで分かっている。

 このまま会話を続けていれば、俺の隠し事などすぐにバレてしまうだろう。

 だからこそ相手の質問に答えず、逆に質問で返したのだが――。


「おっとぉ、これは困ったのう。

  質問を投げたのはワシの方なのに、質問で答えるとは困った男子おのこよなぁ。『てすと』とか苦手か? 肩の力を抜くがよい、うつけめ」


「なぁ…! おま…………好き勝って言いやがって。

 ――そんな顔で言われても説得力ねーよ」


 軽口を叩く初音の表情はこれまで見た事もない程に暗く、気分が沈んでいるとか、思い悩むなどといった次元ではない。


 憔悴しょうすい

 そう表現すべき感情が彼女の心を満たし、新緑の晴天を思わせる表情を曇らせた。


「おぉ、そうかのう…。

 ふむ…………そうかも…しれんな」


 父親との会話はどのような内容だったのかは、その表情を察するに余りある。

 俺も初音と兼宗カシュウの会話は一部だけだが耳にしており、かなり気を使うべき部分だと感じていた。

 恐らく、父親から過去の詳細を聞いた事で納得を得た反面、心に負った傷も深かったんだと思う。


「人とは……ままならぬ生き物よなあ。

 ははは、それは鬼とて同じことか…」


 空虚な笑みが一陣の風に運ばれ、うつろに開いた夜の海へと消えていく。

 ()()()()()台詞せりふを口にしながら、覚束あぼつかない足取りで見えているはずの波間へ向かって歩くさまは、初音に対する漠然とした不安を確信へと押し上げるには十分だった。


「初音、無理をする必要なんてないんだ!

 辛かったら……俺が隣に居てやる。

 ずっと隣で支えてやるから……だから、ひとりで消えてしまうような真似はやめろ――ずっと…お前のそばに居させてくれ…」


 空っぽな瞳をした初音を引き留め、後ろから抱き締める。

 二度と大切な人を離さないように。

 二度と――死なせないように…。


「だから…お主はうつけじゃと…。

 ワシ……本当は…母上を探して家を…。

 もう、いるはずがないのに……でも…!」


 生涯を悔いる事なく終えられる者など存在しない。

 それは人であれ、鬼属きぞくであれ、たとえ造られたモノであれ同じなんだ。

 手を緩めれば失ってしまう。

 そう確信したからこそ、俺は最後まで初音を守ろうと心に誓った。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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