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鬼女の妄執

 地下牢へと続く狭い道に足音が響く。

 岩壁に反響する音はぎこちなく、体のどこかに不調を抱えているのか、歩調が酷く乱れているのが分かる。


「誰だ? 誰かが近づいてくるぞ…」


 ようやく緊張から解放された俺達の元へ、大怪我を負った鬼属きぞくの兵士が息も絶え絶えの様子で駆け寄ってくる。

 彼の鬼気迫る表情を一目した瞬間、再び息の詰まる緊張が張り詰めた。


「す、澄隆すみたかさ…ま…どうか……どうか、お逃げを!」


「是非もない。

 包み隠さず申してみよ」


 澄隆すみたか公は自らの手で傷だらけの兵士を抱き起こすと、異常を知らせに来たであろう彼に状況をたずねた。

 しかし――。


「ぐぅぅ! ぎぃぃぃ……逃…げ……」


「ち、父上!」


 兵士は錯乱しながら手にした刀を振り乱し、澄隆すみたか公の頭をかすめて辺りをメチャクチャに斬りつけ始めた。

 明らかに常軌じょうきを逸した豹変ひょうへんぶりに息を飲む。


「な、何が起きて…うわぁああ!」


「離れておくんなせぇ!」


 一兵卒とはいえ相手は鬼属きぞく

 恐るべき腕力で暴れる彼を止める手段など、Awazonにだってあるはずもない。

 だが、鬼の領主は俺が想像していた以上の器量を持ち合わせていた。

 澄隆すみたか公は紙一重で致命的な攻撃をかわし、無刀取むとうどりで刀を奪うと瞬時に兵士を組み伏せ、無力化に成功する。


「す、すごい!」


「どうじゃ、ワシの父上は偉大であろう!」


 自分の事みたいに自慢する初音。

 その気持ちは察するが、今はそれどころではない。

 兵士が激しく暴れるたびに周囲の岩壁には衝撃が走り、ただでさえ崩落が心配される地下牢はすぐにでも崩れてしまいそうだ!


「おいおい、どうすんだよ…。

 ダメ元で鎖を買ってグルグル巻きにするか?」


 恐らく、どれだけ太い鎖でも数分と持たない。

 購入を迷っていると、背後から人を小馬鹿にした笑い声が届く。

 この声の主は――。


「ははは、ま~た困ってンのかよ。

 やっぱアタシ様がいねェとダメだな」


飯綱いずな!?

 お前、今までどこに…。

 いや、それよりも何か手があるんだろ?」


 兼宗カシュウを吹き飛ばした大穴の向こうで宙に制止していた飯綱いずなは、得意満面といった具合で俺達の顔を見渡す。

 コイツはとんでもなくルーズで殆ど本心を明かさない奴だけど、間違いなく頼りになる女だ。

 何の手立てもなく姿を現すとは思えない。


「少しは分かってンじゃねェか。

 ほれ、これでチャッチャと黙らせろよ」


「ロープ? こんな細い物、一瞬で……そうか!

 千代女ちよめが使っていた鬼封じの縄だな」


 澄隆すみたか公が押さえつけている隙に素早く拘束すると、先程まで手がつけられなかった兵士は嘘みたいに大人しくなり、血走った眼で荒い息を吐く。


「これを破れるのは極々一部の鬼属きぞくのみ。

 ワシらにとっては天敵のような物よ」


「馬鹿力が取り柄のお前が無理だってんなら、相当な代物なんだろう」


 理屈は全く不明ながらも効果は抜群。

 見た目は将棋の駒みたいなのが等間隔で付属した、本当に普通の縄なんだけどね。


其方そなたの助力に感謝致す。

 お陰で若き家臣を手にかけずに済んだ。

 わしの目に狂いがなければ、神奈備かんなびもりを拠点とする高名な修験者殿とお見受けする」


「まぁな、その認識で合ってるぜ。

 それよかよォ、全員早いトコ逃げた方が良い。

 もう城ン中にアンタの味方はいねェ。

 なんせ、兼宗カシュウの妄執はまだくすぶってンだからよ!」


 飯綱いずながもたらした驚くべき事実。

 兼宗カシュウは――奴は謀反むほんを諦めていないのか!

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