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継母の思惑 (初音視点)

「くっ! ここもか…」


 地下牢へと続く道には兵士達の詰所がいくつか存在するが、そのことごとくが機能を奪われておった。

 だが、ここまで無抵抗に全滅するものか?

 いくらなんでも都合が良すぎであろう?

 そんな事を考えていると最後の詰所が見えてくる。

 ここは特に広い間取りで多くの兵が控えているはず!


「誰ぞ…無事な者はおるか!」


 願いを込めて鉄板貼りの重厚な門をくぐると、切迫した状況とは思えない、むしろ逆に不自然な程に落ち着いた佇まいの男女が目に入った。


兼宗カシュウ様!?

 それに貴様は…」


「これはこれは、御久しゅう御座います。

 初音姫様」


 忘れたくても記憶の片隅に粘りつく、この声の主は――甲賀こうが藤九郎とうくろう

 こんな時だというに、一番会いたくない奴に出くわすとは!

 相も変わらずワシのしゃくに障る男じゃ。


「牝犬が穴蔵から飛び出して来たかと思えば、今度は半端者か。…そんなにも血相を変えて、しかも婚約者を前にしてどうしたのじゃ? それとも、座敷牢はそんなにも居心地が悪かったかのう?」


 優雅な仕草でころころと笑う御母様。

 妙じゃ…いつもなら禁を破ったと知れば、烈火の如く怒りをあらわにするだろうに…。

 なぜ、こんなにも落ち着いていられる?

 城内の異変には気付いて……まさか!?


「容姿はわらべでも頭は呆けておりませんな。

 いやはや、御見事。流石は澄隆すみたか様の御息女といったところでしょうか」


 まるで褒めるつもりのない形骸な言葉。

 まさに藤九郎という男は、自己紹介以上に簡素な言葉で己を表現してみせた。


兼宗カシュウ様…城内の者は皆、何者かの服毒によって昏睡しております。恐らくは忍びによる仕業かと…。そのような状況で、忍びの頭領と御一緒している理由を御聞かせ願いたい」


 もう分かっている。

 だが、それでも――。


「知れたこと、国崩しの()()()に害虫駆除を請け負っておるのよ」


「国崩し!? そんな…馬鹿な…!

 斯様かような真似事、到底許される所業ではありません! どうか、御再考をっ!!」


 心からの嘆願を受けた御母様は手にした扇子で口元を隠し、あたかも答えを待つワシの揺れ動く心情を楽しんでいるようにも思えた。


「確かに少なからぬ命が失われるやもしれん。

 その中には――九鬼家の領主も含まれておるやもしれぬ……のう?」


「父上が!? 馬鹿な……」


 言葉が…出ない…。

 血は繋がっていなくとも、愛されていなくとも、家族だと思っていたのに…。


「何を驚いておる?

 てっきり納得するものかと思っていたのじゃが、どうやら想像以上に甘い奴よのう。

 そんな所はお前の母、妙天院みょうこういんに瓜二つじゃ」


 突然耳にした母の名に動揺を隠せず、荒れ狂う海原に翻弄ほんろうされる帆船はんせんめいて、ワシの胸中は激しくき乱された。

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