謎多き助っ人 ゴえもん
「さて、旦那。
この状況、もしかして考えようによっちゃ最高なんじゃないんですかい?」
確かにゴえもんの言う通り。
鉄格子がぶっ飛んだ上に邪魔な見張りも居ないなんて、最高の御膳立てみたいなもの。
「それは良いけど歩けますか?
先に治療を済ませておきましょうよ」
さっきから気になって仕方がなかった。
この世界の医療レベルは決して高くないが、そこはAwazonの強みが活かせる部分。
幸いな事にポイントは潤沢にあるんだ、しっかり使わせてもらうとしよう。
「…相変わらず、お優しいこって」
「え?」
スマホの操作に集中していたので聞き漏らしてしまった。
再び聞き返したが彼はヘラヘラと笑うばかりで答える気がないようだ。
取り敢えず今は時間が惜しい。
Awazonで治療薬を購入して、手早くゴえもんの足に応急処置を施す。
「へぇ~、こりゃイイ!
ニイサンなら名うての薬師になれまさぁ」
前にも言われた気がするが、俺には医者なんてとてもじゃないが務まる気がしない。
「そんな事より、歩けるなら急ぎましょう!」
「へへへ、承知~♪」
俺達は万が一の場合に備え、警戒しながら外へと続く道を急ぐ。
「ところで、ゴえもんさん。
もしかしてなんだけど…貴方、俺と似たような奴と関わった事はないですか?」
「……さぁ?
ニイサンみたいな人がそうそう居るんで?」
案の定はぐらかされた。
「さっきの立ち回り、凄いじゃないですか。
一体どこで会得したんですか?」
「若い時に伊賀の方でちょいとね」
彼は本当に投獄される程の罪人なのか?
バギーを狙って森田屋で大立ち回りを演じたものの、彼の行動には不可解な点が多すぎる。
異世界で行った初めての商売を支援してくれたり、危うく大怪我を負うところだったお鈴ちゃんを助けたりなど、大泥棒と称されている割りには妙に人間くさく、根っからの悪党とは思えなかった。
「貴方は死んだと風の噂で聞きました。
どうして牢屋で生かされてたんですか?」
「存外、悪運が強かったみてぇでね。
たまたまってトコでさぁ」
先程の一悶着もそうだ。
彼は脱獄するという共通の目的があるとはいえ、千代女との戦いなど完全な部外者。
言ってしまえば、俺を見捨てて逃げてしまった方が遥かに安全で手っ取り早い。
にも関わらず、浅からぬ傷を負ってまで俺を助けた。
――何故? 理由が分からない。
「足の具合はどうですか?
かなり…いや、よく歩けますね」
「生まれつき丈夫なもんで。
旦那の腕が良かったんでさぁ」
ふくらはぎの肉がミンチになっているのに、『体が丈夫』で済ませる気か?
どう考えても無理があるだろ!
俺が施した治療など、包帯で痛々しい傷を隠した程度。
たったそれだけで、極めて短時間の内に走れるまで回復するものなのか?
お前が言うなと言われそうだが、絶対にあり得ない!
それに加えて彼は、閃光手榴弾というAwazonのラインナップにもない物を持っていた。
あれから散々ショップを探したが見つからず、彼自身の手製という事でギリ納得したが、実際の見た目まで同じというのは流石にデキ過ぎじゃないのか?
異世界の言葉に関して万治郎も口にしてはいたが、どうやら稀に俺と同様の者は現れ、殆どが環境に馴染めずトラブルを起こしたり、町を出ていってしまうらしい。
「そこらじゅうに見張りが転がされてまさぁ。どいつも昏睡してますぜ」
「みたいですね。
鬼のフィジカルは俺も身をもって知ってます。
意識を取り戻せば、城内に侵入した敵をすぐにでも撃退してくれるでしょう」
「えぇ、確かな話しでさぁ」
さっきから返答とは名ばかりの、曖昧で適当な言い分。
彼は何者なんだ?
奇妙な疑いは底無し沼のように深みを増し、ゴえもんという男の正体を黒い泥で覆い隠す。
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