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名サポーターあしな

「貴方…忍びね…? わたしには…わかる…。

 この…感じ……伊賀者の…流れ……けど…妙…ね」


 ゴえもんも忍者?

 俺には盗人ぬすっとと言っていた。

 この世界の盗賊にとって、忍術は必要なスキルなのだろうか?


「あらぁ~、あっしに興味を持たれたんですかい? 参ったなぁ~、こう見えて結構…」


 瞬きの間に千代女ちよめは2本のクナイを投擲とうてきし、更に大きく踏み込むと袈裟懸けさがけに斬りつけた!

 それを――ゴえもんは避けない!?


「危な…」


「おぉっと~、確かにあぶねぇ娘さんだ♪」


 なんて男だよ…!

 投げられた2本のクナイを難なくキャッチすると、先の4本と合わせて両手の指で挟み込み、千代女の小太刀を正面から受けきった!


「あっしは結構…『ない~ぶ』なんでさぁ!」


 ガラ空きの腹へ激烈な前蹴りを放つと、辛うじて残っていた鉄格子の一部もろとも千代女を吹っ飛ばす!

 まさか八兵衛さんを倒した相手を圧倒するとは…。

 流水の如く鮮やかに見舞われた一撃に目を奪われ、彼の強さに心から称賛を送った直後、立ち込める砂煙を切り裂いて、再び数本のクナイが飛来する。


「――チィ!!」


 高速で迫るクナイを見事に弾いた瞬間、ゴえもんの眼前で突如として複数の爆発!

 意味が分からず呆然と立っていた俺は、直後に発生した爆風で大きく後方へと飛ばされてしまう。


「残…念……やっぱり……()()()()()…」


「お互い様ってぇトコですかい。

 弾薬たまぐすりの扱いに関しちゃアンタの方が上手うわてみてぇでさぁ。クナイに仕込むたぁね……お陰で…足にちょいと痛ぇ傷をこさえちまったよ…」


「ゴえもん…アンタ足が…」


 俺は自分の目を疑わざるを得ない。

 爆発の衝撃によって彼の右ふくらはぎは大きくえぐれ、痛々しい肉と骨が剥き出しになっていた。

 …だが、本来ならば大量に流れ出るはずの血は一滴もなく、まるで精巧な蝋細工ろうざいくのようだ!


「あぁ…ツバつけときゃ治りますって…」


 そんな……そんなワケあるか!

 いきどおりにも似た指摘が脳内に溢れ、どうして俺と同じ体なのか問いただしたい気持ちを抑えられない一方、目の前に構える強敵がそれを許さない。

 それもそのはず、コイツは――異世界でも飛びきりのモンスター!


 千代女ちよめは揺れ動く陽炎の如く左右に身体をしならせ、またたく間に複数の残像を生み出す。

 いわゆる分身の術って奴か?

 まるで粗の目立つ立体ディスプレイのように見えるが、肌を粟立あわだたせる殺意だけはどんな科学でも再現できないだろう。

 その一点に関して言えば、コイツの右に出る者の存在は考えたくもない。


「貴方は……念入りに……殺して……あげます」


 唇を血で染めた千代女ちよめもダメージは小さくないが、ゴえもんに比べればまだ戦えるようだ。

 俺は…情けない事に爆発の衝撃で背中を打ったのか、しばらくは動けそうにない…。

 恍惚こうこつとした表情の千代女が油断なく間合いを詰め、最後の一撃を今にも繰り出そうとしていた。

 ゴえもんと視線を交わし、最後の時をじっと待つ。


「…トドメっ!」


「今だ!!」


 壁際まで吹っ飛ばされた事で死角を利用し、Awazonで2つの買い物を済ませる事ができた。

 購入したのは――。


「お前が相手なら遠慮なく使ってやれるぜ!」


 俺が手にしたのは電気火災時に使用される水消火器。

 ピンを抜いてレバーを引いた瞬間、大量の水が広範囲にき散らされ、攻撃動作に入っていた千代女に襲い掛かる。

 これなら相手が1人だろうと、複数だろうと関係なしに、必ず命中する!


「ただの水で……わたしを止めることなど!」


 突然の事に動揺を見せた千代女だったが、害のない水だと分かると即座に反撃の体勢に移った。


「分かってる。

 けど、水の怖さはもっと別のところだ」


 購入した残り1つは――スタンガン!

 水消火器によってズブ濡れのクノイチは、見聞きした事もない別世界の道具を警戒しているようだが、この時点で俺達は勝ったも同然なんだよ。


「あなたの腕で……当てられる?」


「当たるさ、嫌でもな!」


 俺は一面が水浸しになった地面に向け、通電させたスタンガンを接触させた瞬間――!


「あああああああ!!」

「ぐぅぅうおああ!!」


 感電という未知の現象を、文字通り体で体験する千代女ちよめ

 しかし、水消火器を使った俺も無事でいられるはずがなく、同時に感電してしまう。

 不死身でなければ選択できない、捨て身の手段だった。


「流石でさぁ! 旦那!!」


 ゴえもんがトドメとばかりに、無防備な千代女の脇腹へ6本のクナイを突き立てる!


「ぐぅ……!!」


 苦悶くもんの表情を浮かべ勝負ありかと思われた矢先、千代女の刺し傷…正確には、ボディラインに沿った服の隙間から多量の白煙が吹き出す。


「な!? ゴブッ……! ガ…ァァ…!!」


「吸い込まないでくだせえ!

 忍びが使う有毒の目眩ましでさぁ!」


 どうなってる!?

 辺り一面が煙で目が…鼻も…クソ!

 効果時間は数秒といった所だろうか。

 徐々に煙は晴れ、どうにか呼吸ができた頃には千代女の姿は消えていた。


「上手いこと逃げるもんだ。

 ニイサン、大丈夫ですかい?

 それにしても助かりやした、いやぁ流石!」


 本当に、この世界はどうなってやがる。

 初音と合流してここを離れなければ、命が8つあっても到底足りないだろうよ。

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