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穴蔵の牢名主

 暗い……どこだ……?

 あれから…どうなった?


「ッ~~!! ってぇ…!」


 辺りを見回そうとした所で顔の下半分に感覚がない事に気づき、急いで触ってみると強烈な痛みが走った。

 骨や歯に異常はないが、どうやら激しく脳が揺さぶられた影響で脳震盪を起こしたらしい。

 相当な衝撃だったが殴られた訳ではない。

 本当に、鬼にとっては挨拶にも満たない事なのだろう…。


「初…音……どこ…だ?」


 グラつく頭を押さえつけ、次第に目が暗闇に慣れてくると、狭い穴蔵に閉じ込められているのが認識できた。

 向いの通路で揺らめく光は蝋燭ろうそくの灯りか?

 見慣れない場所――ここは一体…?


「ほぅ~、お目覚めですかい?

 存外、丈夫なようで結構結構~♪」


 不意に掛けられた言葉に身がすくむ。

 なんだ? 誰だ!?

 腰のナイフに手を伸ばすが空虚な手応えしかなく、視線を外すとさやどころかネットランチャーや、ガマ口までもが奪われていた。


「そ~んな警戒しなさんなって~。

 あっしらおんなじ仲間じゃねぇですか~」


 いつの間にか、声の男は鼻が触れ合う程の距離まで詰めており、思わず飛び退いてしまう。


「だッ! …誰…なんですか…?」


 初対面の人にえらく失礼な態度を取ってしまい、一抹いちまつの気まずさを覚えて語尾が弱まる。


「おっと、こりゃ失敬!

 あっしは名乗るのも烏滸おこがましいケチな盗人ぬすっとでね。

 色々あったついでに、ちょいとドジ踏んじまった挙げ句、このザマって訳でさぁ」


 この声――それに盗人ぬすっとって…まさか!


「お、お前は……ゴえもん!?

 そんな…し、死んだはずだ!

 熊野に連行されて、そこで…」


 俺は夢を――今度は悪霊に取りかれたのか?

 何故なぜここに処刑された男がいるんだ!

 それとも……俺は今度こそ死んで、異世界から地獄に堕ちたとでもいうのか!?


「は~い、お察しの通り。

 ここは伊勢のくに、鬼の盟主たる九鬼くき 澄隆すみたか様の本城 熊野の鬼ヶ城でさぁ!

 ようこそ! 三途の入場待機列へ~」


 全ッッ然、笑えねぇ…。

 しかし、この独特のノリは伊勢で捕縛したゴえもん本人で間違いない。

 相も変わらず人を喰ったふうにふざけていて、実態が掴めない男だ。


「けど、待てよ…。

 泥棒と一緒って事は――ここは牢屋か?」


「は~い、ピンポン大正解~♪」


 別の意味で頭が痛くなってきやがった…。

 どうやら、気を失った俺は牢屋に放り込まれたらしい。

 ゴえもんは粗末な木綿の服を身に着けてはいたが、最大の特徴とも言える歌舞伎役者めいた隈取くまどりメイクは健在で、こうして面と向き合っていても素顔も含め、年齢すら分からなかった。

 見られたくない事情でもあるのだろうか?

 えらく鍛えているのだろう、薄い木綿の着物越しに隆々とした筋肉が見えている。

 …いやいや、今はそんな他人事より重要な事があるはず!


「あのぅ、ゴえもん…さん?

 俺達は本当に…その…アレです…ほら」


「あぁ、死ぬよ。当ったり前でしょ?」


 言い難い事をアッサリと肯定されてしまう。この人、本当に分かってるんだろうか?


「ジタバタしたってしゃ~ねぇんでさぁ。

 こうして穴蔵に入ったが最後、後は御上の気分次第。だったら、ここで大人しく御沙汰ごさたを待つとしましょうや」


 そう言って粗末なゴザの上で寝転ぶと、いびきをかいて寝てしまった。

 なんて人なんだ!

 怖いとか怒りとか、そんな負の感情を彼からは一切感じない。

 オイオイオイ、冗談じゃないぞ!

 こんな所にいたら、近い内に処刑されるって事じゃないか!


「クソ! 出せ!

 ここから出してくれ!!」


 唯一の出入口である鉄格子に手を伸ばし、力の限り必死に叫ぶがむなしく響くばかりだった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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