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継母

「口をつつしめ。

 そなたに母と呼ばれる覚えなどないわ」


 自身の不快感を隠そうともせず、混乱に拍車を掛ける言葉が兼宗カシュウと呼ばれた女の口から出ると、その様子を察したのか初音がフォローを入れてくれた。


「申し訳ありません…。

 ですが、私は貴女様を本当の母だと……」


 言い終わらない内に、女の鋭い視線が不可視の針となって降り注ぐ。


「黙れ、半人半鬼はんじんはんきの半端者め!

 いくら澄隆すみたか様の御子とはいえ、お前ごときが母子などと誰が認めるものか!」


 まさに生まれついての傲慢さが逆にマッチし過ぎている位、女の態度は終始一貫している。


 酷い…。

 余りにも冷たい発言に初音は動揺を隠しきれず、それ以上の言葉を口にできないでいるが、俺が思わず頭にきて口を出そうとすると、こちらへ向けられる視線が必死に止める。


『絶対に何もするな』


 無言だがハッキリと伝わった。

 下手に動いて不興を買えば最後、簡単に始末されてしまうのだと。


 そうか、初音の角が片方しかないのも、お藍さんに母親の面影を重ねたのも――そういう事だったのか…。

 これまで垣間かいま見せた寂しそうな表情も、お鈴ちゃんを妹同然に接したのも全て…。

 重苦しい緊張と静けさの中、兼宗カシュウは見下げ果てた視線を俺へ移す。


「どこぞの猿めが、鬼属きぞくを相手に手こずらせよって…」


 ゆっくりと歩いてくるが逃げ場はない。

 どうする!?

 一かばちか、正面からバギーで特攻するか!?


兼宗カシュウ様、どうか寛大な御処置を!」


 鬼女は手にした扇子を優雅に扇ぎ、どうしようか考えあぐねている様子。

 いかにも、()()()()()()()()といった感じだ。

 そう、生かすも殺すも…。


 畜生!どうすりゃいいんだ!?

 女は既に目と鼻の先まで迫り、立ち止まると物色するように俺の全身をくまなく値踏みする。


「猿にしては妙に毛並みが良い。

 まるで誰かに飼われているかのように…。

 お前、何者じゃ?」


 扇子が微動だにできない俺の顔をひたひたとでるが、生きた心地がしない。

 鬼の持つ圧倒的な力を知っている為なのか、それとも恐怖に飲まれてしまっているのかは自分でも判然としないまま、状況だけが悪化の一途を辿たどっていく。


兼宗カシュウ様…お願いです…どうか…」


 涙を流して嘆願する初音。

 それ程までに、この女は危険というのか…。


「ハハハッ、半端者は猿にもあわれみを示すのか。どちらもお似合い、実に愉快な事よな」


 そんな初音の様子を楽しむかの如く、兼宗カシュウはサディスティックな笑みを浮かべて俺の下顎に扇子を当て、指先で軽く弾くと一瞬で視界が歪…み――。


「あしな! あしなぁぁあああ!!」


 意識を失う間、ホームに響く女の高笑いを聞いた気がした。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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