表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
252/300

流転

「怪我はないか?」


 俺の声が届いていないのか、初音は今も町の方向を向いている。

 じっと感覚を研ぎ澄ませるが視界には深い緑が広がり、人影もギンレイも見当たらない。

 あれから町を離れ、バギーに乗って神奈備かんなびもりの入り口までやってきたが、ギンレイを置き去りにしてしまった事や町の人達を巻き込んでしまったのを悔やむ。


「…ギンレイは賢い子じゃ。

 狼は鼻が効くので『ほぉむ』の場所も覚えておろう。心配しとらんよ」


 俺を元気づける言葉とは裏腹に、視線は町の方へと向けられたままだ。


「そうだな…」


 今の俺には力なく肯定してやる事しかできない。

 再びアクセルを開けて走らせるが、いつもより意識して速度を落とす。


「大丈夫、きっと戻ってくるぞ」


「…そうでなきゃ困るさ」


 ホームを離れていたのは数週間だけだったというのに、少し見ない間に印象が変わったように感じた。

 異世界に来て以来、あれだけ慣れ親しんだホームが全く別の場所みたいに感じたのだから、本当に不思議だ。

 それは初音も同様らしく、既に見知った場所を初めて訪れたみたいに触れてみたりしている。


「さ…てと、まずは…何するんだっけ…」


 自分の事だというのに、なんだか妙にらしくないというか…他人事のように感じてしまっていた。


「そうさな…まずは食事じゃろ。匂いに釣られてギンレイが帰ってくるやもしれんぞ」


「あぁ、確かに……そうだな」


 少しでも帰宅の助けになれば。

 その思いが強く出たのだろう。

 無理にでも元気を出そうといさんでホームの中へ入り、食事の準備を始めようとした矢先――。


「…な!? あ、足跡が……こんなに!」


 洞窟の地面に目を落としてようやく気付いたが遅かった。

 入り口から初音の緊迫した声が響く。


「は、離せ! 無礼であろう!」


「初音!」


 一体どこに潜んでいたのか。

 初音は複数の鬼属きぞくと思われる兵士に拘束され、身動きが取れずもがいていた。


「どうしてここがバレた!?」


 ――最悪だ。

 連中はとっくにホームの場所を特定して、待ち伏せていたのだろう。

 ホームの中は見慣れない足跡があちこちに残され、奥の鍾乳洞まで続いていた。

 刀や槍を持った兵士達がにじり寄ってくるが、俺にはどうしようもない。

 忍者インキャを撃退した時のような奇襲は複数相手に通用するとは思えない。

 半ば諦めの境地にいたところ、森の奥から高圧的な声が投げられる。


「やれやれ、今回は流石に手を焼いたぞ?

 のう――初音姫や」


 声の主は白い…そう、全身が白一色で統一された女。

 向こう側が透けて見えるのではないかと思わせる白い肌。

 清流に純白の絹を流したような長い濡れ髪。

 夜空にまたたく星を連想させる瞳は紫水晶の如く輝き、美しさと触れ難い冷たさを内包している。

 そして…その整い過ぎている相貌そうぼうからは似つかわしくない2本の角。

 もしや、この鬼は…。


「貴女は…兼宗カシュウ…御母様…」


「な!?」


 そんな…亡くなっていると思っていたのに。

 初音の…母親!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ