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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!
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俺は異世界の釣りキチあしな!

「それじゃ出掛けてくるから。

 お前はホームで大人しく待ってろよ」


 足元にまとわりついて離れない狼をどうにか引き離し、トートバッグを片手に今日も食料調達にいそしむ。

 空を見上げると切れ長の雲が風に吹かれ、東の方向へと流されていた。

 俺の予想が正しければ、恐らく夕方には一雨ひとあめ降るだろう。


「それまでに帰ってこないと……最悪、ホームに戻れなくなるかもしれん」


 なにせホームと呼んでいる岩の裂け目は川の近くにあり、降雨によって川が氾濫はんらんした場合、渡河とかできずに取り残される可能性がある。

 そうなってしまう前にホームに戻らなくてはならない。


「今回は遠出しない方が無難だな。

 少し上流を攻めてみよう」


 道に迷う心配のない川沿いを移動しつつ、野生動物に注意しながら歩を進めた。

 相変わらず手付かずの自然が視界一杯に広がり、川の両岸を埋める森林からは様々な鳥のさえずりが聞こえてくる。

 もしも、遭難ソロキャンという状況でなければ…最高のピクニックと言って良い。

 空を覆いつつある雲のお陰で日差しが遮られ、水面を滑る風が運んでくる冷気が火照ほてった体を包み込む。

 全くもって行動するには最適な環境だ。

 そのまま1時間ほど歩いた所で、急に川幅が広がった場所に突き当たる。

 ホームの前を流れる狭くて速い川とは全く違う、いわゆる瀞場とろばだ。

 周りの景観も驚くほど静かで、緩やかな流れと結構な水深を備えているようだった。


「物は試し。ちょいと流してみよう」


 近くの林に分け入り、数匹の蜘蛛やバッタを見つけて確保する。

 更に適当な竹を切り出し、バッグに入れておいた釣糸と針を取り付け、即席の釣竿を完成させて準備を整えた。

 わざわざ釣竿を持ってこなかった理由は、この方法なら移動にも困らず、竿を紛失したとしても容易にリカバリーが効く為。

 俺は手頃な岩に腰掛け、水流に任せて餌を運ぶ。

 針に掛けられた虫は滑るように水面を流れ、ジタバタともがく絶好のアピールで獲物を誘う。

 しばらくすると周囲よりも水が停滞している場所に流れ着き、水面に僅かな波紋を広げていく。


「藻や漂流物が多く流れ着いてる。

 うまい具合に湾処わんどに入ったな」


 湾処わんどとは川の流れが穏やかな部分であり、水棲すいせい生物の住みであると同時に、様々な魚種の産卵場所でもある。

 つまり、川で釣りをする上で絶好のポイントなのだ。

 じっと針先を見つめていると次第に波紋が大きくなっていき、餌である虫が小さく浮き沈みを繰り返す。

 この駆け引きが釣り人にとってたまらない瞬間だ!

 人と魚との知恵比べであり、我慢比べの勝負。


「まだだ…まだ……まだ………ここッ!」


 餌が大きく沈んでから一瞬の、人と魚が交差する接点を嗅ぎ分けてフッキング!

 完璧なタイミングで針が食い込み、竿を通してダイレクトに伝わる確かな手応え!


「いいねぇ、これが釣りの醍醐味だいごみだよ」


 静まり返った水面を力強く弾き、姿を現したのはマダライワナとは別種の魚。

 丸々と太った体長40cmの大物だ!


「どれどれ、『異世界の歩き方』に書かれてる名前は……マブナフナ。 生息域は極めて広く、灰褐色のたくましい魚体と――目蓋まぶたを持ってるだと!?」


 そんな魚が河川に存在するのか?

 釣り上げた獲物を目の前にぶら下げると、愛らしい瞳が熱烈なウィンクで俺をにらみつけていた。

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