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初音の秘められた苦悩

「うわぁ……死んでない…よな?」


「この女がこの程度でくたばるものか。

 それより、此奴こやつに聞きたい事は山程ある。

 拷問してでも聞き出すなら今のうちじゃ」


 マジかよ…。

 事故っといてなんだけどさ、正直気が進まないなぁ。

 そもそも拷問ってどうやるんだ?

 むちとか蝋燭ろうそくとか使っちゃうの?


「いやいや、その…趣味じゃないっていうか、すごく興味はあるんですけどね?」


「何を訳の分からん事を言うておるのか!

 起きる前に、はよう縄で縛っておけ!」


 すげぇ怒られた…。

 バギーとクノイチがめり込んだ壁には無惨な大穴が開き、周囲には縦横に痛々しい亀裂が刻まれていた。

 まぁ、全部俺がやっちゃったんですけどね。

 スマホの操作でバギーを消し去り、ぐったりとしたままのクノイチを抱き起こすと、下着姿だったのを思い出す。


「流石にこのままってのはなぁ…」


 俺はガマ口に入れておいた救急セットで簡単な手当てを施すと、Awazonでロープとバスタオルを購入し、肌を隠してからロープでぐるぐる巻きにしておいた。

 考えたくもないけど、もしクノイチが反撃に転じたら、今度こそ退ける手段はない。


「手当てなど相変わらず甘い男子おのこよのう。

 この女は猛獣みたいなものぞ。

 これくらいの仕打ちは当然じゃ!」


「起き掛けに暴れるかもだしな。

 きつく縛っておいたから逃げられないよ」


 これで当面の危機は去ったと思う。

 ギンレイは縄を解かれたと同時に例の天井近くへ駆け寄り、しきりに鼻を鳴らして悲しげな声で呼び掛けるような仕草を繰り返す。

 ギンレイが見せる不可解な行動は何だ?

 誰かが天井裏に潜んでいたのだろうか?

 壮麗な模様が描かれた天井絵を見つめ、疑念の残り香をぎ分ける。


「いやいや、犬じゃあるまいし。

 それにしたって広い部屋だよなぁ~。

 大広間を超える超広間って感じ。

 畳で舞踏会とか開かれて――何か落ちてるぞ」


 窓から差し込む月明かりが床に転がっていた物を照らし、目映まばゆい光を反射させている。

 興味をかれて拾い上げると、クノイチが今しがた奪ってきた鬼涙石きるいせきだ。

 こんな物、一体なにに使うつもりなのだろう?


「ギンレイ、お前は館の入口と庭を警戒せよ。

 あしなは……あ、あしなぁああ!!」


 全身に走る悪寒。

 振り向くと血塗ちまみれのクノイチが背後に立ち、息が触れ合う距離まで顔を近付けたかと思うと――。


「ッッ!!」


 何を考えているのか…。

 クノイチは俺の唇に口づけすると、まるでマーキングするように自分の匂いを移す。


「あぁぁぁ……このッ…れ者めぇ!」


 怒りで我を忘れた初音のグーパンがクノイチの顔をかすめ、バギーの衝突にも辛うじて耐えていた壁に、止めとばかりの一撃が加わる。

 素人目にも分かる典型的な児戯じぎとも言えるだだ々っ子パンチによって、大穴どころか一面の壁が粉々に消し飛ぶ!

 鬼の持つ圧倒的な破壊の力を目の当たりにした俺はガチで腰が抜け、その場に座り込んで呆然とするばかりだ。

 そんな俺に向けて、血だらけの女が妖艶ようえんな笑みを浮かべ、驚くほど嬉しそうな声で話し掛けてきた。


「この痛み……とっても…素敵でした……また……お会いしましょう」


 そう言うと、負傷しているとは思えない蜘蛛のような動きで、壁だった所へ音もなく移動する。

 その身のこなしから、奴が余力を残しているのは疑いようもない。

 コイツ…バギーが消えるを待っていたのか?

 だとしたら、いつから俺達を観察していた?

 もしかしたら、ずっと見られている感覚があったのは、コイツが原因なのか!?


「待てぇ! 逃がさんぞ!!」


 追いすがる初音の追撃を華麗にかわし、そのまま外へ飛び降りて忽然こつぜんと姿を消す。

 最後にあの女…あの唇の動きは言葉には出さなかったが読めてしまった。

『セキニン』だ…。

 初音は女の後を目で追うが程なくして諦めたのか、大きく息を吐くと向き直ってもう一度息を吐いた。


「すまんな、あしな。

 今の今まで失念しておったが、彼奴きゃつはワシ所縁ゆかりの者じゃ。名は千代女ちよめ、甲賀忍軍の首領 甲賀こうが藤九郎とうくろう配下の忍びよ。

 随分と前に行われた縁談の席にて、真冬の庭で警備に当たっておったのを思い出したわ」


 忍者と陰キャって語呂が似てるよなぁ。

 そんな現実逃避じみた事を考えるのも無理はない。

 突然聞かされる話としてはインパクトがデカ過ぎて頭に入ってこないのだ。

 未だ低速回転を続ける脳にむちを打ち、どうにか覚えていた事柄についてたずねる。


「え……縁談ってのは?」


 一際に大きな溜め息。

 苦虫ニガムシを噛み潰すようにして眉間にしわを寄せた初音から、意外過ぎる言葉が飛び出した。


甲賀こうが 藤九郎とうくろうはワシの…父上が決めた婚約者じゃ」

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