たまには、こんな日も
ブレーキをかけた状態でスロットを開け、エンジンの回転数を上げていく。
歴史ある建造物でこんな事をするなんて常識では考えられないが、相手は常識が通用しないという事は明白。
先程の初音とギンレイを瞬時に縛り上げた手腕からみて、ダメージを受けた素振りは全て嘘!
奴は最初から初音を拐う目的でここに入り込み、鬼涙石と共に奪い去るつもりなのだ。
この陰キャならその辺りの抜かりはない、そう思わせるに足る圧を感じさせた。
なら、こっちもトコトンまでやってやる!
「お前が売った喧嘩だからな、死んでも責任なんて取らねぇよ」
「殿方の……セキニン……よい…響きです…」
うっとりとした表情は熱と艶を湛え、潤むような瞳は危険な色情で誘惑するようだ。
それを示すように両手を柔らかくしならせ、自身の身体をなぞるような手つきで興奮を高めているように思う。
しかも、セメントを浴びた忍び装束を脱ぎ捨て、下着姿で肌を露にしてだ。
極めて扇情的なボディラインを挑発するかの如く見せつけ、これから起きるであろう出来事に対してよからぬ期待を寄せているかのように。
一目みて陰キャの住む世界が俺とは違う事を思い知らされる。
絶対に同じ世界には居たくないと、心底叫びたくなる程に!
「待ってろよ、初音…ギンレイ!」
女の立ち位置が僅かに変化した事で、影に溶け込む全貌も白日の元に晒け出す。
長めのアンニュイミディな黒髪に部分的な朱のメッシュを多数加えた特徴のある髪型、顔はすれ違えば忘れられない美貌だが氷のように冷たい眼光と、モデル顔負けのスタイルを備えていた。
あの時と同じ、神奈備の杜の最奥部で出会った時と同様に、ゾッとするくらい美しい暗殺者がそこに立つ。
「死を…覚悟した…殿方の目…いつ見ても…素敵」
しばしの睨み合いと両者の沈黙。
大広間には似つかわしくないエンジン音が響き渡り、クノイチは静かに胸元から鋭い短刀を取り出す。
その仕草は男を魅了する蜘蛛を思わせ、体のあらゆる部位からキケンなフェロモンを振り撒くのが見えるようだ。
こいつに問答は無用!
目一杯のフルスロットルで加速させたバギーは沈黙を破り、館の畳を巻き上げて一直線に迫る。
「無駄……そんな速度で…私を捉える…事など…」
俺は陰キャが初音を抱えて後ろを向いた瞬間、ガマ口から出しておいた物をズボンのポケットに隠していた。
それをバギーの加速に合わせて奴の眼前でぶっ放つ!!
「避けてみなよォォォオオオ!!」
瞬く間に発射されたネットが視界を覆い、意表を突かれたクノイチは反応すらできずに絡め取られ、動きを止めた。
不審者拘束用ネットランチャー。
離れた場所から相手の自由を奪う防犯機器!
「こんな物…簡単に…!」
考えた事もないだろう。
この世界、この時代の人間にとって未知の素材『超高強力ポリエチレン繊維』
ピアノ線の8倍以上の強度を持つ特殊繊維で作られたネットを刃物で切るのは至難を極め、無理に動けばネットは更に絡む。
刹那、女と視線が交錯した――気がした。
真正面から最高速度で衝突すると、そのままの勢いで押し込みバギーごと壁に叩きつける!!
凄まじい破壊音と同時に、ネットランチャーを使う為に両手をハンドルから離していた俺は、慣性によって前に放り出されてしまう。
「い…ってぇ…けど……。
い、一発…かましてやった…ぜ…」
流石のクノイチも衝撃で気を失ったのかピクリともせず、安心した俺は馬鹿みたいに痛む体を引きずって初音の元へと歩み寄る。
「ははっ、随分と派手にやったのう?」
何と答えれば良いのか迷ったが、今の気分のまま口にした。
「まぁ、たまには…な?」
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ここまでのAwazonポイント収支
『ヒグレタンポポを採取――1000ポイント』
以下を購入
『タンキニ水着――4800ポイント』
『タープテント――10000ポイント』
『アウトドアチェア(2脚)――4500ポイント』
『セメント20kg(5セット)――7500ポイント』
『ネットランチャー――35000ポイント』
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