表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
228/300

ギンレイが鳴いた夜 (万治郎視点)

 正直、オレは世間って奴を甘くみてたフシがあったのは認める。

 生まれ持った体格に加え、九鬼家の近侍きんじを務める親父殿の存在。

 正直、餓鬼ガキん頃は誇らしいと思ってたさ。


手前てめぇ! 久しぶりの顔合わせだってぇのによぉ、随分と派手にやってくれんじゃあねぇか!」


 あれから吹っ飛ばした先で斬り合い、一瞬の隙を突かれて左肘から腕をもってかれた。

 胴体が離れてねぇのは木刀のお陰だろうよ。

 とはいえ、こうもアッサリ左腕を切り落とされてちゃ文字通り手も出ねぇ。

 犬っころは最初こそガチってたものの、流石に相手がわりぃ。

 いや、悪すぎたんだ。

 親父殿とは踏んだ場数がまるで違う。

 それこそ目にも止まんねぇ速度で掻き乱してくれてたんだが、次第に対応されて右の前足をやられた。

 殆ど切断に近い傷口は皮一枚でギリ繋がってるだけ。

 けど、それでもコイツの闘志はえてねぇ!

 ギンレイとか呼ばれてたな。

 大した犬っころだ。


 ……今更だが、アニキの判断は正しかった。

 オレの腕なんざ屁でもねぇが、血で真っ赤に染まった犬を見てるとよぉ……。

 オレが腹の底から後悔するなんざなぁ、珍しい事もあるもんだ。

 そういや、戦場で負傷した時の心構えってのを繰り返し繰り返し、耳にタコが出来るまで聞かされたっけなぁ…。


「なんと……()()()()……。

 タテガミ…ギンロウの……足元にも……及ばず……もう……いたわ……」


 オレが弱いだと?

 そんなワケあるか…!


「当方にナマこいた奴ぁ手前てめぇが初めてさ!

 あの世で自慢してきやがれ!」


 残った右腕で得物を振り抜くが、まるで当たる気がしねぇ。

 心なしか木刀が重い…。

 あぁ、そうか。

 腕、一本しかねぇから重く感じるのか…。


「がぁ! ……あぁ」


 袈裟懸けさがけの一刀をモロに喰らっちまった。

 鎖骨ここをやられると腕が上がんなくなる。

 体の正面にあるから喧嘩けんかじゃ定石の狙い所なのさ。

 けど、相手が段平だんびらだとその程度じゃ済まねぇ。


「よくぞ……避けた……だが……今しがたの……手応え……」


 言われなくても分かってんだよ。

 紙一重でギリ()()()だ。

 避けきれなかった…。

 キッチリ鎖骨の奥にある血管をバッサリ。

 本気の親父殿はつえぇとは思ってたけどよ、ここまで一方的にボコされるとはな。

 オレ、こんなにも――弱かったんかよ…。


「……首を……」


 村正むらまさとやらを掲げて最後の一刀が迫る。

 防ごうにも右腕が上がらねぇや。

 お江姐こうねぇさんの木刀も限界だ。

 ま、ここまでもってくれたのが奇跡ってトコか。

 ボロクソに負けたオレを見て、また優しくしかってくれんのかなぁ…。

 今までお袋の代わりやってくれてよ、『ありがとう』なんて言えるはずもねぇから舎弟んなって……結局、言えないまま死ぬのか。

 馬鹿みてぇじゃねぇか、オレ…。


 振り下ろされた太刀は不思議と緩慢に見えた。

 死に際はナンヤカンヤと思い出すらしいけど、親父殿に関して憶えてる事は、いつだって家の門を出る後ろ姿だった。

 懐かしい記憶に美しい白銀が滑り込む。


「……な……あ…ギンレイ!」


 目の前で分断される体。

 地面に転がった先でギンレイは、最後にアニキの方を向いて小さく鳴き声をあげ、静かに目を閉じた。


「お、オレをかばって……当方の…為に……」


 誰も助けられねぇ。

 オレが――弱いから…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ