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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
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君に出会えて――

「あし……な……あしなぁあ!」


 直前で二人の間に割り込み、全身で刃を受けた俺の体は幸運にも両断は免れ、大胸筋と皮膚が辛うじて繋ぎとめていた。

 本当に幸運だったのかは分からないが…。


「妙な……手応え……!

 お前……人間では……な――」


「それ以上言うなぁぁああ!!」


 初音の体当たりによって八兵衛さんは猛烈な勢いで吹っ飛ばされ、軒を連ねる家屋の壁を次々と突き破る。

 これで少しは時間が稼げるのかもしれないけど、根本的な解決には至らないだろう。

 だとするなら――。


「初……万治…と女媧ジョカさ……連れて…逃げ…」


 ギンレイの姿はどこかへと消え、付近には見当たらない。

 恐らく、クノイチの時と同様に相手が自分よりも強いと判断した結果、野生の本能で戦いを放棄したのだと思う。

 …それでいい。

 人間同士のゴタゴタに、狼であるギンレイが関わる必要なんて無いんだから。


「あしな! もう喋るでない!

 馬戯異バギイでここを離れるんじゃ!

 奴は…じいはこの程度では――」


 言い終わる前に大気を揺らす反響音がとどろき、圧縮された空気でつくられた幾重いくえもの防御膜が破られていく。

 不気味に響く音は和太鼓のように夜空を震わせ、周囲に存在する物は何であれ、徹底的に破壊された。


「も…う…俺は……早…く…行……」


 湾曲した空間の数m向こう側。

 心まで鬼となった老侍は息遣いさえ聞こえる距離にまで近づき、最後の守りを突破しようと村正むらまさを振り上げる。


「あああああああ!!」


 刀よりも早く、咆哮ほうこうを上げた万治郎が背後から横薙よこなぎに木刀を払う!

 老侍は強烈な不意打ちを脇腹に受け、体をくの字に折り曲げる程の一撃が、再び彼を遥か遠方へと吹き飛ばした。


「万治…郎……初音…を……たの……む」


「ここまでされてよぉ、アニキ…。

 男が黙って引っ込めるかよ!

 るんだ……俺と…アイツでな!」


 女媧ジョカ様のお陰で即死を免れた万治郎だったが、胸を刺された傷は決して浅いとは言えず、荒い息をするたびに伴う吐血が深刻な状態を物語る。

 一方、遠くから鋼の残響と獣のたけり立つ声が届く。

 俺は即座に理解した。

 ギンレイは逃げてなどいなかったのだ!


「い…ぬ……いや……タテガミ……ギンロウか…。

 よいぞ……き……強者つわものなり……!」


 空間に刻まれた無数の斬撃がギンレイを襲う!

 触れれば両断されてしまう死線の数々をくぐり抜け、人間の反射神経を凌駕りょうがした速度で翻弄ほんろうし、鋭い牙と爪で反撃を敢行する。


「ギンレイ!

 そんな…ワシは、ワシは一体どうすれば…」


 進む事も退く事も出来なくなった初音は動揺するばかりで動けず、無二の忠臣と自身の弟とまで言う狼の身を案じた。

 両者の激闘に万治郎まで加わり、いつ、誰が致命傷を負っても不思議ではない緊迫した戦いが続く。

 俺は足元から徐々に感覚が麻痺していき、今度こそ死を覚悟する。

 だけど、これだけはやっておかなければならない!


「お前…に……これ…を」


 最後の力を振り絞って初音にスマホを手渡す。

 俺でさえ異世界で今日まで生きてこられたんだ。

 これさえあれば、初音だけでも逃がす事は可能かもしれない。


「い、いやじゃ…『すまーほ』…はお主の物。

 お主の目を盗んで買い物するのが楽しいんじゃ! ギンレイや飯綱いずな女媧ジョカ様に万治郎の阿呆も…全部、全部! じいや父上も……母上だって! ワシは誰にも死んで欲しくなどないんじゃ!」


 やっぱり、やさしい娘だ。

 君に出会えてよかった――。


馬戯異バギイが外に!

 ……あしな?

 お、おい……あし……そんな…死…」

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