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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
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妖刀に魅入られし者

「万治郎! じい!」


 初音の悲痛な声は夜の闇に消え、永遠とも思える一瞬が流れる。

 万治郎の手から木刀が滑り落ち、全身から力が抜けていく。

 真っ直ぐに心臓を貫かれ、地面にひれ伏す万治郎だったが――。


「ぐ…ぅ……クソ…がっ!」


 生きている!

 だが、駆け寄ろうとした俺達の前に女媧ジョカ様が現れ、厳しい口調で制止した。


『いっては駄目!

 いけば…殺されます』


 彼女が感情を込めて話すのは極めて珍しい。

 困惑と焦燥感に駆られた俺はどうすればいいのか判断できず、八兵衛さんへ必死に訴える事しかできなかった。


「万治郎は貴方の息子ですよ!?

 一体…どうしたんですか、八兵衛さん!」


 しかし、問い掛けられた八兵衛さんの耳に俺の言葉は届いておらず、依然いぜんとして彼の関心は手にした刀に注がれている。

 あの刀…神奈備かんなびもりで俺が手渡した物じゃない。

 行方不明中に入手したのだろうか?


「斬れぬ……面妖な……術」


 よく見ると万治郎の体は半透明の膜に被われ、刀を受ける寸前に女媧ジョカ様が神力で守ってくれたようだ。

 虚ろな瞳が刀の切っ先を不思議そうに見つめ、月明かりが老侍のせた姿を影絵の如く射抜く。


「あれは…まさか……村正むらまさか!?

 じゃが、桑名宗社で厳重に守られておったはず…。そうか、それでじいは…」


 一人で合点がってんを得た様子の初音。


「あの刀がどうかしたのか?

 どう見ても古いだけの刀じゃないか」


 刀剣類に疎い俺には理解できないが、八兵衛さんの変容に刀が関係しているとは思えない。

 否定の言葉を口にした矢先、女媧ジョカ様が驚くべき事実を述べる。


『あれは…千子せんご 村正むらまさが己の血と命で打った最後の一振り。 の地にあまねく全てを斬りたいと願った…妖刀』


よう……あ、あり得ない!

 馬鹿げた威力は刀の力だというのですか!?

 八兵衛さんが正気を失ってるのも、妖刀に魅入られたのが原因だと!?」


 妖艶ようえんな輝きを放つ刀は吸い込まれる程にみがかれ、美しくも危険な気配を漂わせる。

 しばらく見惚れていた八兵衛は、思い出したかのように向き直ると、負傷した万治郎を無視して俺達の方へ歩き始めた!


じい…ワシを斬るつもりか?

 20年の付き合いを忘れ去るほどに、たかが刀一本に心まで奪われたか!」


「20…?

 誰だ……お前は……誰?」


 歩みを止めた八兵衛さんは苦悶くもんの表情を浮かべ、矢鱈目鱈やたらめたらに刀を振り回す。

 家屋を破壊した威力には劣るものの、それでも到底近づく事などできない!

 効果有りとみた初音は、なおも語り掛ける。


「思い出せ。

 お主は我が父、九鬼くき 澄隆すみたか第一の忠臣にして波切りの異名を与えられた矢旗やはた 八兵衛じゃ!」


 過去を呼び覚ます説得によって、彼の苦悶くもんは精神にまで及ぶ激痛へと変わり、刀を持つ手が僅かに緩む。

 空虚な瞳に理性の光が灯り、このまま正気を取り戻すかに思われた。


「そうじゃ、またワシの守役として――」


 まばたくより速い一閃が前髪をかすめ、想像もしていなかった忠臣の行いに思考が止まり、呆然としてしまう初音。

 高々と掲げられた凶刃が振り下ろされる瞬間、俺は何も考えずに飛び出していた。


「初……音…」


 振り下ろされる刃。

 その時、体の中を通り過ぎる金属を『冷たい』とだけ感じた。

 三重県桑名市の桑名宗社には、村正の写しが所蔵されています。

 本物は桑名市博物館にも所蔵され、こちらは脇差ですね。

 作中では桑名宗社から奪った太刀としております。

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