オワセヤマドリの丸焼き
鶏肉と一言でいっても様々な種類が存在する。
定番の鶏の他に軍鶏、鳩、鴨、雀、アヒルに七面鳥などなど。
今まで色々な鶏肉を食べてきたけど、山鳥は初めての体験なので楽しみだ!
不思議なガマ口によって荷物の制限がなくなり、大型の調理器具も難なく運べるようになったのは本当に助かる。
「あー、お前らも飯食うつもりなの?
物を壊したり喧嘩ばっかしてんのに?
ちょっとマジに図々しくない?」
「はい、申し訳も御座いません……ですじゃ」
珍しく従順な態度を示す初音。
夕食を人質に取られた鬼娘にとって、飯抜きの危機に瀕したともなれば、背に腹は代えられないという事なのだろう。
「……万治郎、お前は何やってんだよ?」
「男が示す最大級の謝罪、土下寝っす。
アニキの怒りを買っちまった以上、覚悟は出来てまさあ! 如何様に、存分にヤキを入れてくだせぇ!」
謝罪の仕方が逆に怖ぇんだよ!
地面にうつ伏せ状態となり、完全な無抵抗を全力で表しているらしいのだが、こうまでされると普通に引く。
いや、ドン引きである。
ぶっちゃけ関わりたくないとさえ思ってしまう一方、半壊したテントの中で身長190cmを超える特攻服ヤンキーが寝転がっているのは正直、すっげぇ邪魔なんだよ!
さっきから何回も頭のフランスパンに躓きそうになってて危ねーんだよ!
『もう、許してあげて…』
隣では物憂げな表情で訴える女媧様と、本日最大の功労者(功労犬?)であるギンレイが悲しげに鼻を鳴らしている。
両者からこうも心配そうな顔をされてしまうと、俺の方が悪者みたいじゃないか。
「はぁ、もう怒ってないから。今日は遅くなっちゃったし、山鳥を食べて早めに休もう」
「待ってました! そうと決まれば酒じゃ、酒!」
「おっしゃああ! これで手打ちだぜ!」
無罪放免は早かったかもしれん…。
そう思わせるには十分な程の豹変っぷりに、怒りを通り越して目まいすら覚えた。
ダメだ、このままだとストレスで俺が死ぬ!
「も、もういい…。今夜はダッチオーブンを使った『あしな特製オワセヤマドリの丸焼き』を作ってみたぞ」
全体が飴色に仕上がった山鳥の丸焼きはシンプルながらも、豊かな香りと出来立てを知らせる湯気を上げ、廃墟同然だったテント内の雰囲気を一変させた。
「おぉ、濃厚な甘辛い香り…!
忘れもせぬ、これはヒメゴトミツバチの蜜に醤油を加えたんじゃな?」
「ああ、刷毛を使って丁寧に塗り重ねて焼いた。時間は掛かったけど、良い色合いに仕上がったよ」
飯盒で炊いた米を配膳し、ギンレイには片方のモモ肉と内蔵や足先を盛り付けた。
「お前のお陰で良い夕飯になったよ」
待ちきれなかったギンレイは豪快な食べっぷりで応え、ますます大きくなっていく体を震わせて喜ぶ。
俺達もご相伴にあずかろうと熱々の身を切り分け、ローストされた身と皮を口に含む。
「おっほ、ハーブを使ってないのに…この香り! まるで鮎みたいに内側まで染み入る香薫!」
近くに落ちていたサオリヨシノの枝で軽く燻してみたのだが、これが大正解!
野生動物が持つ独特の臭みを打ち消し、食材のポテンシャルを引き上げるのに一役買ってくれた。
「皮! パリッパリのウマウマじゃ!
これだけで酒が進むの~う♪」
「外で食う飯が…こんなにも旨かったのか…」
噛むごとに溢れてくる肉汁。
表面を被う甘辛いソースは焚き火で炙られ、旨味を閉じ込めると共に抜群の歯応えも両立させる。
山鳥の引き締まった肉も絶品で、鶏肉よりも遥かに弾力があって、肉を噛む喜びを存分に味わう。
「よいのう…。なんだか久しぶりじゃ」
酔いしれる。
まさに、言葉通りに旨い食事と酒を皆で囲う喜びを、再び教えられた気分だ。
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