表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
217/300

父として、武人として (別視点)

「初音は…我が娘はまだ見つからんのか」


 九鬼 澄隆すみたかは壮健な偉丈夫いじょうぶとして堂々たる佇まいを有していたが、しばらくは胃痛に悩まされる日々を過ごさざるを得なかった。

 その心痛と言える種は、今も目の前にある。


「御下がりください、澄隆すみたか様!

 我等、九鬼水軍の精鋭にお任せを!」


 先程から遅々として捜索が進んでいない。

 それというのも神奈備かんなびもりに入って数日、ひっきりなしに襲ってくる熊やヘンショウヒキガエルの群れによって、少なからぬ被害が出ている為だ。

 幸い、命の損失には至っていないが…なんとも情けない。

 この程度の事で兵卒は狼狽うろたえ、指揮系統は混迷の極みに至る。


「…………ふぅ」


 先の戦乱から200年余りの時間は、鬼属きぞくであっても腑抜ふぬけるには十分という事か…。

 澄隆すみたかは次々と運ばれていく兵士達を尻目に、頬杖をつきながら溜め息を漏らす。

 かたわらに控える重臣達は、まさに生きたまま焼かれる思いで平伏し、少しでも主の機嫌を損ねまいと申し開きの言葉を口にする。


「申し訳ございませぬ。兵共の教練が御期待に添えず、大変御見苦しい所を……」


 ここ数日で飽きるほど聞いた台詞せりふ

 既に主の心には届かず、ただ…静かに右手を振って黙らせる。


「面目も…御座いませぬっ!!」


 今にも自刃しそうな重臣を、表面上は気にしていないという風に取りつくろう。

 こんな不毛なやり取りを、あと何日続ければいい?

 考えれば考える程、胃痛の種はむくむくと芽吹き、人知れず鬼の盟主をさいなむ。

 最早、伊勢の國中どころか堺や京にまで使いを派遣し、捜索を続けているが一向に見つかる気配がない。


 しかも、並み居る家臣団の中で最も信頼していた矢旗やはた 八兵衛でさえ、初音の捜索以降は姿を消してしまった。

 重臣達は口々に出奔しゅっぽんを疑うが、あの忠義者に限ってそれは断じてあり得ん!

 恐らく、守役としての責任感から一人で神奈備かんなびもりへ足を踏み入れたのであろう。

 初音姫――我が最愛の娘…。

 初音は鬼の血を引くとはいえ、まだほんの子供のような歳。

 やはり婚約など早かったのだろうか、それとも既に意中の者が?


 いやいやいや、考えるな!

 まだだ、まだあの子だけは手元に置いておきたい。

 我が妻が残した現世の忘れ形見、そうそう手離してなるものか!

 また胃痛の種がうずきよる…全く忌々しい。


 医学者からは止められている酒に手を伸ばし、一息にあおる。

 そうする事でほんの僅かではあるが、臓腑ぞうふに眠る潰瘍かいようが大人しくなる…ほんの一瞬だけだが…。

 憂さ晴らしに脇へと投げ捨てた酒瓶にすら、重臣達にとっては空からの天降石に等しいのか、周囲に気取られる程の怯えようを見せる。


「そうだ、()()いらつくのだ!」


「い、いけません! 澄隆すみたか様!

 どうか、どうか自重を!どうかっ!」


 目の前には一丈(3m程)の熊がワシの前に立ち塞がり、あろうことか見下ろしているではないか!


()()()()()にいつまで手こずっておる!」


 げきを飛ばすと同時に熊は右前足を振りかざし、ワシの顔を撫でようとする。


「無礼者め!」


 伸びきった前足に下から左手を突き上げると、肩口からあっさりと千切れ飛ぶ。

 空へと舞い上がる足を受け取り、そのまま獣の頭へ八つ当たりの一撃を加えると、あたかも膨らんだハリセンボンを踏み潰したように四散した。

 未だ熊共に囲まれ騒然としていた場が一瞬で静まり返り、次いで割れんばかりの歓声が上がる。

 本当に…この程度の事で……。

 まだまだ、胃痛のむしは散々にのたうち回り、一向に収まる気配をみせない…。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ