噂の真相を求めて
「ところであしなよ、今回の旅では誰を連れていくつもりじゃ?」
食料と水を始めとした荷物をガマ口に詰め込んでいると、初音が妙な事を聞いてきた。
「誰…って、全員で行くんじゃ――」
「アタシはパスらせてもらうぜ。
ンなド田舎に行くぐれェなら、ここで酒飲ンで情報集めてた方がよっぽどマシってもんだ」
お前の言う情報収集ってのは、寝転がってホ○同人誌を読み漁る事なの?
内閣情報調査室も顔負けの仕事熱心な修験者サマは、同人誌片手に手首をプラプラさせ、無言で会話の終了を告げた。
「ハァ、もういいや。
行くのは俺と初音、ギンレイで決まりだな」
安定と信頼の初期メンバーで挑もうとしたところ、やたらと咳き込んでいた万治郎がチラチラと俺の方を見ていた事に気づく。
「夏風邪か? お鈴ちゃんにうつすなよ」
「ちょーい、待ってくれよアニキ!
また危ねぇ橋渡ろうってんでしょう?
だったら当方も御供しやすぜ」
気合い十分といった様子の万治郎。
実はゴえもんと闘った際、全く勝負にならなかった事を密かに気にしていたようで、今度こそ大活躍しようと躍起になっているようだ。
しかし、頼りがいのある特攻ヤンキーの参加表明にも関わらず、俺は一抹の不安を感じていた。
「以前にも言ったよな、俺達はお前の親父さんを探してる。噂の鬼夜叉が何者なのかは分からないけど、それが八兵衛さんだった場合――」
「アニキ、あんま当方を舐めんといてくださいよ…。これから会う奴が鬼だろうが誰だろうが、アニキの敵になる奴ぁ親父殿だってぶん殴る所存だぜ!」
俺の言葉を遮って覚悟の程を口にした万治郎だったが、強気な発言とは裏腹に、瞳の奥では僅かな動揺が垣間見えた。
やはり、長年に渡って疎遠だった父親との確執は想像以上に根深いのだろう。
「…お主にとっても決して無関係な話ではない。
そこまで同行を希望するなら、ワシらが拒む理由はないと思うが……のう?」
初音は八兵衛さん失踪の原因が自身の家出という事もあり、万治郎を連れていく事に前向きな意向を示す。
こうなれば俺も無理に反対する理由はない。
「分かったよ。
けど、一つ約束して欲しい。
たとえ、どんな状況になったとしても絶対に無茶をしたり、自分の身を犠牲にするなんてのは無しだ。約束できるな?」
「応ともよ! アニキの舎弟として、命懸けで的を張る覚悟は出来てんよ!」
コイツ、全然わかってねぇ…。
彼自身気づいていないようだが、過剰とも思えるくらい忠義に厚いところは、父親の八兵衛さんにソックリだ。
若干の目まいを覚えていたところに、手押し台車を引いたお江さんが声を掛けてくれた。
分厚い鉄板で補強された大型台車に載せているのは――どう見ても普通の品ではない。
「昔はもっと軽く感じたんだけどねぇ。
万治郎ちゃん、これを持っていくといいわ。
アタシがやんちゃしてた頃に使ってた…お古だけど、きっと役に立つと思うの」
「こいつぁ……姐さんが愛用してた木刀!
い、いいんですかい!? だって――」
二代目の気遣いを固辞したお江さんの笑顔は、どこか空虚で吹っ切れた雰囲気を漂わせる。
長さ2mを超える幅広の木刀は『異世界の歩き方』によれば、ユウソウボクと呼ばれる非常に希少な木材で作られており、鋼鉄に並ぶ程の硬度と重量を持つ。
試しに柄を持ち上げてみたのだが、もはや剣とか武器というよりも、縛りと表現した方がしっくりくるレベルだろう。
コレを普段使いしていたという、お江さんの体力には閉口するしかない。
『愛しい子よ……我も…』
耳元で囁くようにして女媧様の声が響く。
こうして、世にも珍しいメンバーで鬼夜叉の真相を確かめる旅が始まった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここまでのAwazonポイント収支
『異世界大捕物――80000ポイント』
現在のAwazonポイント――303,490P