決定的な一撃!
「あしな…あしな…!
お鈴が…お江が目を覚まさぬ!
ギンレイまでもが……。
まさか…まさか……ワシ、どうすれば…!」
「まずは落ち着くんだ。
さっきのは傷つける為の武器じゃない。
皆は一時的に気を失ってるだけだから安心してくれ! 今は…コイツを抑えるのが最優先だ!」
マズい…初音まで想定外の事態にパニックを起こしかけている。
万治郎が戦線を離れ、ギンレイは失神している。
愚連隊も殆どが宿の外まで逃げ出し、女媧様まで消えてしまった。
ここで最後の戦力である初音までパニックに陥ったら…。
「さぁ~て、どうするね?
旦那も尻尾巻いて逃げ――」
最後まで言わせるつもりはない。
俺はゆっくりと立ち上がると、未だ閃光手榴弾の影響が残る頭を振り、落ちていた刺股を拾う。
対峙する意思を明確に示すと、ゴえもんは嬉しそうに口元を歪めた。
「結構、そうでなきゃ~なぁ♪」
「アンタ、俺と同じ世界から来たんだろ。
何が目的だ? バギーが欲しけりゃくれてやっても良かったけど、森田屋の人達を巻き込んだのは許せねぇよ!」
くるくるとサングラスを回しながら、どこか戯けた表情でゴえもんは事も無げに言い放つ。
「おいおい、巻き込んだのは旦那の方だろ?
人のせいにしちゃ~いけね…」
刺股が空を切る!
いい加減頭にきていた俺は内心の図星を突かれ、強引に相手の口を塞ごうと攻撃を繰り出す。
長柄のリーチを活かして次々と刺突を行うが、巧みな体術を持つゴえもんには掠りもせず、攻撃の合間に差し込まれる反撃を容易く受けてしまう。
「あ、あしな! ワシも…」
「来るな! 作戦は変わっちゃいない…。
お前はいつでも飛び出せるようにしておいてくれ」
僅かな攻防で俺が受けた打撃は4つ。
対して大泥棒サマは余裕の表情だ。
折れ曲がった鼻を無理矢理もとの位置に戻し、流れ落ちる汗をシャツの肩口で拭う。
「いいか、チャンスは一度っきりだぞ。
合図したら……遠慮なくブチかましてやれ!」
「Awazonもなしに何が出来るんで?
コレがなきゃ~旦那はフツ~の若造さ」
これ見よがしに奪ったスマホを弄び、再び挑発するゴえもん。
いや、むしろ指摘に近いのかもしれない。
「全くもってその通りだと、自分でも思うよ。
けどな、俺だって異世界に来てから多少は成長してるんだ。それをアンタに見せてやる!」
恐怖で震える足を鼓舞すると一気に距離を詰め、反撃を承知で部屋の角へと追い込んでいく。
三日月状に湾曲した刺股の先端でゴえもんの胴体を捉えるべく、渾身の一撃を打ち出した瞬間、自分の意思とは無関係に体が宙を一回転する感覚を味わう。
相手の勢いを利用して倒す合気道。
万治郎が受けたのと同じ技で俺も吹っ飛ばされ、なす術もなく足元に転がされる。
「はーい、ざんねーん。
学習能力が足りてなぁ……に!?」
終始に渡って余裕の表情を浮かべていた隈取に沿って、一筋の汗が流れ落ちる。
軽やかだった両足は突然の重力に縛られ、降り掛かった不測の重みを支える為に、持ち得る全ての筋力を総動員させていた。
「おやおや、随分とまぁ――忙しそうだな?」
ダメージ覚悟で角に追い詰めたのは、刺股で拘束する為ではない。
仰向けに倒れた俺の手に握られていたのは、飯綱に借りた何でも入る不思議なガマ口。
空中で取り出したバギーは狙い通り、奴の頭上に出現すると100kgに及ぶ重量で押し潰す!
バギーが消えたのはスマホで操作したのではなく、俺が自分でガマ口に収納したのだ。
少しでも異常を感じた場合、盗まれるのを予防する為に!
それでも、こんな手段で使おうとは思っておらず、上手くいくかどうかの保証なんて全くなかった。
「今だ! やれ、初音ぇえええ!!」
「安心せい、骨は拾ってやるわ!」
既に準備を整えていた初音はクラウチングスタートを思わせる姿勢のまま、尋常ではない速度で突っ込む。
まともに喰らえば――大事故確定だ。
だが、文字通り余裕をかなぐり捨てたゴえもんは、驚異的な腕力でバギーを引き倒し、一瞬早く離脱の動きを見せる。
「じょ、冗談じゃ……コイツ!」
奴が逃れるよりも早く、最後の力を振り絞って足にしがみつく。
「忠告しといてやる。
アイツの体当たりは…メチャクチャ痛ぇぞ?」
直後、背中に受けた衝撃は言葉などでは到底表現できず、脳内イメージは暴走ダンプカーの轢き逃げが思い浮かぶ