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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
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ゴえもんからの挑戦状

「な、なんだよアイツ!?

 おたずね者のクセに昼間っから堂々と町を練り歩いてるぞ!」


 犯罪者という概念を根底からくつがえす男の行動に、俺達は度肝を抜かれて面食らってしまう。

 普通は捕まらないように隠れたり、なるべく遠くの方へ逃げるものじゃないのか?

 常軌じょうきいっした男は人相書の通り、顔に歌舞伎役者みたいな白の地色に雄壮な紅隈べにぐまを施しており、目元まで黒い縁取りがされた素顔は表情すらうかがい知れない。


盗人ぬすっとの分際で大勢の女子おなごを侍らせ、往来を我が物顔でくなどという行い、断じて見過ごす訳にはいかん!」


「ちょ、待て!」


 九鬼家の一人娘として義憤ぎふんに駆られた初音は、止めるのも聞かず男の方へ猛然と走りだす!

 10m程しか離れていない距離を鬼のフィジカルで強引に突破しようとするが、狭い通りにギュウギュウ詰めになった人だかりを押し退けるのは容易ではない。

 多分、町人達に怪我をさせないように力をセーブしているのだろうけど、手加減した状態では突破は望めず、あっと言う間に人混みに飲まれてしまった。


「初音! クソッ…すぐそこに居るのに手が出せないなんて…!」


 俺の焦りを嘲笑あざわらうかのように男は余裕の表情で女達を抱え、バカ笑いをあげて周囲から喝采を浴びている。


「…おかしい。周りの町人達はどうしてゴえもんを捕まえないんだ? 相手は商家に忍び込んで物を盗む犯罪者なんだろ?」


 遠巻きから男と周囲の状況を俯瞰した事で生まれた疑問。

 人相書には極悪人とまで記載されていたのに、町人から浴びる喝采が意味するものは、全く別の側面があるとでもいうのか?

 しばし呆然としていると、お鈴ちゃんが理由を教えてくれた。


「ゴえもんさんはね、お金がない人からお金を盗らないんだって仲居さん達が言ってたよ」


「金持ちしか狙わないってこと?

 だとしてもだよ、人の物を盗むのは悪いことじゃないか」


 普通に疑問を口にしたつもりだったが、8歳の子供は答えにきゅうした結果、涙を浮かべて泣き出す一歩手前にまで追い込んでしまう。


「す、スンマセンでしたー!

 俺が全面的に間違ってますです、ハイ!」


 捕まえるべき泥棒を前にして、幼女に全力で土下座をかます俺。

 こんな事してる場合じゃないのに…。


「あーしーなー!

 帰ったら反省会じゃー!」


 人混みの遥か下、雑踏鳴り止まない足元から怒りに満ちた声が響く。

 背筋に冷たい物が流れ落ち、初音が未だに泥棒退治を諦めていない事を示す。


「アイツ…あのままゴえもんに近づくつもりか?」


 かなり不格好だが案外悪くない手かもしれない。

 事実、ゴえもん本人も人混みに囲まれて一歩たりとも動けないのだ。

 初音が小さな体を利用して近づけば、あとは鬼の力で無理矢理にでも捕縛すれば良い。

 お鈴ちゃんは地面にしゃがみ、初音がどの辺りにいるのか教えてくれた。


「あしなさん、初音ちゃんはゴえもんさんの目の前だよ!」


 ここから視認する事はできないが、もう数歩の所まで迫っているらしい。

 捕縛は目前!

 しかし、ゴえもんは初音の接近に気づいていたのか、懐から小判を取り出すとソレを地面に向かって無造作に投げ捨てた!


「う…そだろ……は、初音!」


 陽光できらめく黄金の貨幣。

 大挙として小判に群がる町民達。

 ゴえもんは初音が居るであろう場所を狙って次々と小判をバラき、一瞬にして人々の関心を自分かららした。


「なぁ…! この…退かぬか無礼者…め!」


 誰も彼もが地面に屈んだ事で視界が開け、俺は噂の大泥棒と人混みを挟んで向かい合う。


「あっしを捕まえたいんでやしょう?

 旦那の事はよぉ~く存じてますぜ。

 コソコソされんなぁ趣味じゃねぇんでね、ここいらで退場して欲しいんでさぁ。つーワケで今夜、森田屋にお邪魔して評判の馬戯異バギイを盗むとしやしょうか」


「おらんさんの宿にお前が!?

 それに…今夜だと!? ま、待て!」


 ゴえもんが言い終わると同時に、人々から散々に踏まれた初音が遂にブチ切れ、覆い被さる町人達を一纏ひとまとめに持ち上げた!


「ここまでワシを虚仮こけにしよって……許さん、絶対に許さんぞ!」


「ハハハッ、元気元気! 

 子供はそうでなきゃあなぁ!」


 ゴえもんは投げつけられた町人達を華麗かわすと、驚くべき身のこなしで民家の屋根へと跳躍し、そのまま煙の如く消えてしまった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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