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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 一章 この人数でもソロキャンと言いきる勇気編
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月夜に誘われて

「…知らない夢を……見てた――気がするんだ」


 見上げた月は真円を描き、静かな夜を優しく見守る。

 飯綱いずなも俺の隣で月を眺め、穏やかな顔つきで酒器しゅきを手渡す。


「今夜はアタシが一杯奢ってやンよ。

 この秘蔵の酒でな」


「初音の――だろ?

 バレる前に飲んじまおう」


 手にした竹筒から日本酒を注ぎ、二人で月に向かって乾杯した。

 飯綱いずなと差し向かいで飲むというのは初めての事で、彼女から誘ってくれたという事実は認められたようで嬉しかった。


「う~ン、もう少し甘口のがアタシは好みだねェ。

 けど、これはこれで…悪かねェな」


「あぁ、勝利の美酒ってやつさ」


 耳を済ませば階下では酒を楽しむ人々の声が届き、今日の爆走劇レースについて大いに語りあっている様子。

 とはいっても、俺にとっては数時間前の出来事だというのに、随分と昔の事みたいに感じてしまう。


「現実感がないっつーか……最近思うんだけどさ、時々考えるんだよなぁ。俺って――本当の俺じゃないっていうかさ…」


 うまく言語化できない。

 それでも飯綱いずなは月を見上げ、否定する事も、笑い飛ばす事もせずに聞いてくれた。

 それが…何よりも嬉しい。


「俺じゃない俺の物語…か。

 お前、元の世界に還りたかったンだろ?

 どうして他人の爺さんなんか探してンだ?」


 コイツの方から質問してくるとは珍しい。

 思えば飯綱いずなは過度に人と関わるのを避けてきた傾向にあり、神奈備かんなびもりという禁則地にたった一人で20年も住んでいたのだ。


「急にどうしたんだ?

 質問は嫌いじゃなかったのか?」


「バッカ野郎、アタシがするのはいーんだよ」


 勝手な言い分に苦笑いを浮かべ、質問の答えを酒にたずねる。

 どう答えたものか……。


「今からでも戻りたいさ。

 …戻れるんならな。

 けど、異世界こっちでの生活が長くなるにつれ、もう少しだけ滞在したいような…。そんな相反する気持ちも徐々に強くなってなぁ。気づいたらズルズルってなワケよ」


 曖昧あいまいな答えに二人して吹き出してしまう。

 しかし、この複雑な気持ちを言葉にすると、どうしても微妙なニュアンスが伝えきれない。

 何よりも、八兵衛さんを巻き込んでしまったのは俺の責任だと思っている。

 だとするなら、還るのは彼を探しだしてからだ。


「そうかい、そうかい。

 クッソ真面目で融通の利かねェアンタらしいや」


 飯綱いずなは時々、俺への二人称が変わる。

 意識して変えているのか、それとも単に気にもしていない気紛きまぐれなのかは分からない。

 だが、夢の中で聞いた飯綱いずなは確かに『アンタ』と言っていた。

 夢に出てきた――俺に向かって…。


「なぁ…………月、綺麗だよな」


「あぁ? ……へっ、そうだな」


 聞いても答えないだろう。

 それがまるで、誰かとの契約であるかのように。

 竹筒の酒を飲みきった飯綱いずなはそれっきり何も言わず、夜の月に誘われる蝶の如く、どこかへと飛び去っていった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


ここまでのAwazonポイント収支


『異世界レースに勝利――100000ポイント』


 以下を購入


『抗インフルエンザ薬――30000ポイント』

『バイク用ゴーグル――3000ポイント』


 現在のAwazonポイント――223,490P

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