男達の矜持
相当な痛手を負いはしたものの、思惑通りに逆転を決めて第三の通過地点を目指して疾走する。
次は町の西にあるMIKIMOTO 眞珠店。
ここは現在地から目と鼻の先よりも近く、通りを一本越えた先にある。
「リードした状態で第三もいただき……え?
なんでなんで!? 待て待て待て待て!」
「Fuck you jaaaap!」
洋風建築の建物が見えた瞬間、二階に居た人達から容赦なく銃撃を浴びせられた!
堪らず民家の軒先に避難して事なきを得たが…アイツら何考えてんだ!?
「はははっ、西洋人にゃ当方らの単コロ祭りは理解できねぇんだとよ!
通過地点はここの二階だぜ!」
後から追いついた万治郎も足止めを食らい、二人とも動くに動けない状況となってしまう。
その間もバカスカと好き放題に撃たれ、車体を進めるどころか、軒下から僅かに体を出しただけでも蜂の巣にされかねない。
仮に頭を撃ち抜かれたなら、常人は問答無用で間違いなく死ぬが――俺はどうなるんだ!?
考えたくもない事態が脳裏を過り、体がブレーキを掛けたみたいに踏ん切りがつかない。
どう考えても続行不可能なレベルの妨害に遭い、完全に手詰まりとなってしまった俺を脇目に、万治郎は何かやらかすつもりらしい。
「男は度胸!
日ノ本男子の生き様を魅せてやらぁ!」
「無茶だ! 引き返せぇ!」
万治郎は俺の制止を振り切って広場にある太鼓櫓に騎乗したまま駆け上がるや、馬の前足で巨大な太鼓を蹴り飛ばすと同時に、残りの四本足で屋根を越えて直接二階へ入店した。
「はっはー! 店員の教育がなってねぇぞ!」
飛来した太鼓に怯んだ西洋人は、続いて突っ込んできた暴れ馬によって散々に蹴散らされ、二階から転落する者が続出する。
万治郎は店内を縦横無尽に駆け抜け、一生分の罵倒を受けてようやく退店した。
俺も急いで一階から入店しようとした所、二階から落下した者が万治郎の背中に銃口を向けているのに気づく。
「失礼しまーす! お邪魔しまーす!」
アクセル全開で狙いを定めていた西洋人に衝突した結果、銃弾は間一髪で万治郎のアイパーリーゼントをかすめ、危うく命拾いした。
事故った方は――うん、死んでないからセーフ!
ほっと安堵の息をつき、眞珠店の一階からお邪魔すると心底疲れた表情を見せる彼らに若干の心苦しさを感じつつ、殆ど抵抗される事なく二階からダイナミック退店を成功させる。
かなり出遅れてしまったので急がなくては!
しかし、着地と同時に意外な光景を目にする。
「お前…どうして俺を待ってた?
折角、優位に立てたってのによ」
どういうワケなのか、万次郎は俺が出てくるまで走り出さずに待っていた。
プライドを懸けた一戦にも関わらず、敵に情けを掛ける理由を知りたくて尋ねると、粋である事を信条とする青年はキッパリとした口調で答えた。
「お前こそ、どうして当方を助けた?
この爆走劇にゃ妨害も殺しも、一切合切なんでも在りなんだぜ?
敵に情けを掛けられたまま勝っても意味はねぇ!
だから待った。…そんだけさ」
バカな奴だと思ってはいたけど、まさかここまでバカ正直とは…。
まぁ、お陰で俺までバカになってバカ祭りに参加してんだけどな。
「言っただろーが。
俺が勝ったら話を聞いてもらう。
お前が死んだら意味ねーんだよ。
だから助けた。
つーか、こんなトコで死んでどうする?
また…お江さんを泣かせるつもりか?」
空を見上げた万次郎は向き直り、静かに一言だけを告げた。
「…仕切り直すぜ」
「最後までバカ騒ぎに付き合ってやるよ」
どちらともなく横一線に並び、俺達は改めてレースを再開する。
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