白熱のレース展開、序盤のリードを決めろ!
爆音を響かせてスタートダッシュを決める!
「いくら異世界の馬でも、内燃機関を備えたバギーには――なにぃ!?」
「思ったより速ぇじゃねぇか!
だがなぁ、当方の馬威駆に勝てる奴ぁこの世に存在しねぇ!」
六本足を巧みに操る異世界馬は200ccのバギーを抜き去り、一息で先頭に躍り出た!
力強く大地を蹴る音が響き、万治郎を応援する観客から大歓声が巻き起こる。
「直線だと力負けするってのか!? マズい…このままリードを許すのは絶対にマズい!」
町の南端からスタートしたコースは、次の通過地点が800m先の北端に位置する浦田橋に設定されており、そこまでは目立った障害物やショートカットできそうな場所もない。
長い直線で差をつけられれば、後々まで尾を引くのは目に見えている。
「はっはー! 当方不敗は伊達じゃねぇ!
このまま一気に……な、ああああ!!」
万治郎が駆る馬が、路面を捉えきれずに横滑りしている!
危うく転倒は免れたものの、減速を余儀なくされた馬の後方に追いつく。
「石畳に油を撒いてやがる!
本当に殺す気かよ!」
マップに記載されていなかった情報とはいえ、最初から『何でもあり』と言われて警戒しないはずがない。
このレース、勝敗の鍵は速度を緩めない度胸と、予想を超える事態への対応力とみた!
「悪路ならバギーの方が有利!」
四輪を活かした小さな車体が馬の脇を抜け、一瞬で逆転すると観客からドヨメキが上り、次いで拍手喝采の嵐が沸き起こる。
「やるじゃねぇか…」
背後から感じる万治郎の闘志が強まっていく。
直線をリードした状態で走り抜け、通過地点である浦田橋を視界に捉える。
しかし――。
「橋が封鎖されてるだと!?
おいおい、どうやって渡れば…」
「甘ぇな!
馬戯異のお株を頂戴するぜ!」
万治郎は通りから馬を跳躍させると、そのまま五十鈴川を渡河して橋の逆側から回り込むつもりだ!
一手遅れた俺も浅瀬から川を渡ろうとするが、向こうは流石に地元民なだけあって地形を熟知しており、最短ルートを迷いなく選択して先頭を奪う。
「クッソ! まだ一つ目の通過地点だ。
勝負は始まったばかり…焦るなよ、葦拿!」
リードを許した事に動じない為、自分に言い聞かせて冷静な思考を保つ。
橋の通過地点を通ると同時に封鎖は解かれ、そのまま町の北西に位置する見世物小屋を目指す。
だが、万治郎にかなり離されてしまい、観客からヤジを飛ばされてしまう。
どうにか逆転の機会を見出ださなくては…。
「あれは……けど、今は迷ってる場合じゃない!
突っ込めやぁあああ!!」
それが視界に入った瞬間、脳内スイッチが警笛を鳴らし、第六感が機会到来を告げる。
俺はクラクションを鳴らして観客を散らせ、目の前にあった仕切られた柵を強引にブチ破り、開いていた寺の門へと飛び込む。
慶光院という寺社の境内を疾走すると思った通り、殆ど障害物もなくスムーズなショートカットを果たした!
途中、カンッカンにブチ切れた住職と思わしき人物に呪詛を吐かれたが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
「罰なら後で当ててくれ!
つーか、これ以上の呪縛は要らん!」
裏手口の柵も突破すると、我ながら完璧な方向感覚で見世物小屋の裏手に回り込む。
「て、手前ぇ!
どこから湧いて……とんでもねぇ野郎だな。
喜べよ…当方が認めてやらぁ。
手前ぇはマトモじゃねぇ!」
「そりゃどーも。
なんせ不死身なもんでね」
肩に折れた柵が突き刺さっていたが、構わず第二の通過地点を先取する!




