表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第一部 一章 遭難と書いてソロキャンと読もう!
19/300

明日のソロキャンのために

「さて、そろそろ動くか」


 ようやく満足してくれた狼の子は、初夏の風が吹き抜けるホームの岩肌に身を寄せて寝息をたてている。

 今の内に買ったばかりの衣類に着替え、汗と砂で汚れた冬服や斧、革手袋や焚き火の灰を入れたポリタンクをトートバッグに放り込む。


「新しい夏服最高!」


 やっと季節らしい衣類を手にした事で一安心といった所か。

 これから暑くなるのに冬服で過ごすのは辛過ぎるからな。

 トートバッグも大容量の物をチョイスして正解だった。

 お陰で物品の持ち運びや食料の採取が楽になるし、早速使わせてもらおう。

 ベルトにナイフを通し、バッグ片手に河原へと降りていくと早々に洗濯の準備を始めた。


「炊事・洗濯は生活の基本だからな。

 まぁ、誰かの受け売りなんだけどさ」


 洗剤の類いを購入しなかったのは人間の都合で自然を汚したくなかったという、実に人間らしい理由。

 無事に帰れるのか分からない状況で甘い考えだと自分でも思うのだが、手付かずで残された美しい自然を俺のエゴで汚してしまうのは許せなかった。

 それに洗剤の代えなら既にある。

 さっきまで焚き火をしていた際に出た木の灰。

 ここに川の水を入れて出来上がる灰汁あくが衣類の汚れを落とす洗剤になるのだ。

 その歴史は古く、旧約聖書にもその名が登場するらしい。


「むかーし読んだ本に書いてあったんだけど…本当に、これで汚れが落ちるのか?」


 あくまでも本に書かれた情報による受け売りだったが、今はワラにだってすがりたい状況なんだ。


「まぁ、いいや。

 試せる事は何でも全部試してやるさ!」


 江戸時代には石鹸の代わりとして手洗いにも利用されていた灰汁あく水。

 衛生状態を保つのはサバイバル生活において必須どころか、死活問題と捉えても大袈裟おおげさな話ではない。

 川から少し離れた窪地くぼちに冬服を入れた後、上から灰を被せてポリタンクで水を汲んで浸け置きにしておく。


「いわゆる浸け置きだな。

 まずは繊維の中まで灰を浸透させて、汚れを浮かせてみようか。よし、次の仕事だ!」


 俺は矢鱈やたらとゴワつく革手袋を装着して斧を手にし、適当な竹に目を付けて次々と伐採していく。

 切る際のコツは元々傾いている方向へ更に竹を傾け、斜め上から振り下ろす。

 決して木こりのように横から斧を振り抜いてはいけない。

 その理由は縦に繊維が走っているので割れやすい一方、横方向は衝撃を逃がす弾力性がある為、下手に切りつけると弾かれる恐れがある為だ。


「下手を打って怪我をすれば破傷風になりかねない。つーか、そんな事でAwazonのポイント使いたくねーし!」


 異世界こっちではアオスジタケと呼ぶみたいで、文字通り沢山の緑がかった青い筋が縦に並んでいるが、よく知る竹よりも筋が大きく太いのが特徴だ。

 竹は様々な工芸品に使われる素材で利用価値が高く、水筒やかご、弓やすだれなど多様な用途に溢れている。


「やっぱ一番見逃せないのが食料としての竹、タケノコだな。今は5月だから旬を過ぎつつあるけど、涼しい森の中ならワンチャン……おぉ、あった! 思った通り!」


 かなり成長が進んでしまっていたが、河原の土手からいくつものタケノコが顔を出している。

 予想通りとはいえ、食料が豊富に見つかると素直に嬉しい。

 保存食にする分も含めて多めに採取しようと、なるべく芽が出たばかりの物を選んで掘り起こす。


「うひひ、大漁大漁~♪」


 少しの時間で随分と沢山のタケノコを得られた。

 それらをバッグに入れ、切り出した竹をつるで雑に縛って担ぐと一旦帰宅する事にする。


「まだまだ、こっからだぞ!」


 強い言葉で自分を鼓舞するとホームへ向けて歩きだしたが、生活を安定させるには足りない物が多く、これから生き延びられるかどうかはまさに俺の器量と運に掛かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ