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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 一章 この人数でもソロキャンと言いきる勇気編
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飯綱の暗略

 宿の一室は表現し難い雰囲気に包まれ、重苦しい空気は時間を追う毎に深刻さを増していく。

 誰も彼もが祈る気持ちでおらんさんの快方を願っていた最中さなか――。


「お困りの御様子…だよなァ?」


 陽の落ちた薄暗い廊下から響く女の声。

 聞いた瞬間、俺は漠然と嫌な予感を抱く。


飯綱いずな!?

 それに…女媧ジョカ様まで。

 どうやってここが…」


 言い掛けた俺を無視して部屋の中を見渡す飯綱いずなは、どこか値踏みを含んだ目で老舗しにせ宿の姉妹を見つめている。

 女媧ジョカ様は無言で直立したままだったが、長い廊下の端にまで届く異形の影は、彼女が超常の存在である事を雄弁に物語っていた。


「だ、誰なんですか!?

 その…翼と――か、影は……人じゃな…っ!」


 絶対に口にしてはいけない言葉を限界のきわで飲み込んだお江さんは、口元を被う必要もなく声を詰まらせた。


「アタシ達が誰かだって?

 そんなもンどーでもいいだろ。

 強いて言うンなら流れの薬売りさ。

 けど…アンタらにとっては極上の上客でもある。

 なんたってよォ、そこで死にかけてる女の命を助けてやろうってンだからな」


 その言葉は人の弱みにつけ込み、心の隙間をのぞき見るかのような()を否応なしに感じさせた。

 しかし、毒と分かっていてもなお、口当たりのよい話に耳を傾けざるを得ない。

 特に、生死を境を彷徨さまよう妹をうれう姉ならば…。


「ほ…本当かい!?

 そういえば昼間も汚れが落ちる妙薬や不思議な神水じんすいを売っていた……。もし出来るなら…いや、絶対に妹を助けて欲しいの!」


 飯綱いずなの奴めッ!

 必死の懇願を契機けいきに、お江さんが俺へ向ける視線は見る間に変わってしまった。

 一線を保つ客と仲居という関係を超え、頼るべき医者と患者の家族へと変貌へんぼうしてしまったのだ。


「お願いします!

 妹を助けてくれたなら…もし、助かるなら…何でも…何でも差し上げますから!」


 悲痛な声が鼓膜を通して俺の心を震わせる。

 彼女がどれだけ家族を想っているのか。

 病に苦しむ妹の姿に亡き夫と子供の姿を重ねている事は、容易に想像できた。

 流行り風……それならば…。


「ある程度の事情は分かりました。

 …俺は――旅の薬売りです。

 その病に効く薬なら調合できるかもしれません」


 飛んでもない大嘘つきだ。

 しかし…人の命には代えられない。

 2人にとっては寝耳に水だろうが、それを聞いたお江さんの顔に見違えるような光が差していく。

 感じた事のない重責。

 医者ってのは…毎日こんな気持ちで患者と向き合っていたのか……。

 自分が言い出した事とはいえ、急激に速まる動悸どうきを抑えるすべもなく、ひたすら平静を保つだけで精一杯。

 だけど…ここで退く訳にはいかない。

 努めて冷静に、落ち着いた口調でお藍さんの症状や体調について詳細を聞き出す。

 その間も刺さるような2人の視線を真正面から受け、情けない事に逃げ出したい程の恐怖と後悔を抱いてしまう。

 命の重さ。

 向き合うには相応の、途轍とてつもない覚悟が必要。俺の両手には明らかに余りある。

 その重責の中、飯綱いずなは当然と言わんばかりの口調で恥知らずな要求を伝えた。


「さぁて、それじゃ部屋に案内してくれるか。

 飛びっきりのスイートルームにな」


 コイツ…改めて考えてみれば本当に何者なんだ?

 俺が飯綱いずなについて知ってる事といえば、未来から異世界に飛ばされてきた女というテンプレートじみた情報だけ。

 いや、今はそんなのどうだっていい。

 今は――おらんさんを救う事だけを考えなければ…。

 そうだ、自分に与えられた能力はこんな風に、誰かの命を守る為に使うべきなんだ。


 俺に残された唯一の手段、Awazon

 これだけが頼りだった。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


ここまでのAwazonポイント収支


『異世界での初商売――50000ポイント』


 以下を購入


『子供用ワンピース――10000ポイント』

『ビーチボール――1000ポイント』

『大型水鉄砲――3000ポイント』

『インフィニティチェア――9000ポイント』

『サングラス――5000ポイント』

『ドッグテント――7000ポイント』

『犬用キャリーリュック――1000ポイント』

『つば広帽子――3000ポイント』


 現在のAwazonポイント――156,490P

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