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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 一章 この人数でもソロキャンと言いきる勇気編
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我、天啓を得たり!

 初音のお陰で鹿の運搬はスムーズだった。

 ホームの脇を流れる清流の浅瀬まで運んでもらい、レイホウシンロクの頸動脈を切って残った血を抜く。

 心臓を刺した時にも結構な量の出血があったのだが、それだけでは体長2m近い大物の血抜きには不十分なのだ。

 肉質を良くする為にも、この工程は特に念入りに行って損はない。


「どうして鹿を川に浸すのじゃ?」


「理由は色々あるんだけど、まずは肉質を維持する為さ。筋肉が発する熱で肉が焼けてしまうのを予防するんだ」


 それ以外にも、血の処理と体についた汚れやダニを一辺に洗い流す目的もある。

 これも祖父の友人だった猟師から教わった聞きかじりの知識でしかないが、理由を知った初音はことほか感心した様子で聞き入り、しきりに解体の続きを知りたがる。

 基本的に勉強嫌いではあるものの、自分の好奇心を満たす為なら、進んで学ぼうとする所があるらしい。


「そうだな、血抜きが済んだら毛皮の水を丁寧に拭き取るんだ。こうしないと肉が水を吸って、味が落ちてしまうからね」


「ほうほう、それでそれで?」


 まるで先生と生徒だな。

 けど、別に悪い気はしない。

 子供に物事を教えるってのも大人の務め。

 ここは張り切っちゃおうかな。


「ここで注意すべきは腹膜を傷つけない事。

 体内に残った胃液や糞尿を肉に付着させないようにして、こうやって内臓を引き出す――」


「お前ら何を………………ふぅ」


 どんだけタイミング悪いんだよ!

 やっと目を覚ました飯綱いずなは鹿の解体現場を見てしまい、再び気を失ってしまった!


「これは……あしなの責任じゃのう」


「俺ぇ!?」


 身に覚えのない罪を責められ、仕方なしに飯綱いずなを抱えてホームへ戻る。

 おいおい、本日二回目だぞ…。

 ぐったりと力の抜けた体は思ったよりも軽く、成年女性というよりも、年端もない少女に近い印象を受けた。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「うあああああ!!」


「うおお!? ど、どうしたんさ?」


 薄手のシーツをはね除けて飛び起きた飯綱いずな

 まるで絶望的な悪夢にうなされた直後のようであり、実際に随分と長い間、三角眉にシワを寄せて手足をバタバタとさせていた。

 あれから初音と交代で飯綱いずなを見守るかたわら、鹿の解体を済ませておいて正解だったな。

 でないと、三回目の失神も普通にあり得たぞ…。

 だが、起きたばかりの飯綱いずなは焦点の定まらない目をしており、僅かな物音でも酷く怯える始末。


「えーっと……おーい? その…大丈……夫…」


「うわぁぁあン! バカバカ野郎!

 あンなグロいの見せやがってぇぇ……」


 えぇ…?

 どうした?

 泣きながら俺の胸を弱々しく叩く飯綱いずな

 普段の傲慢ごうまんで下ネタ大好きな態度とは180°違い、妙にしおらしいというか……何を企んでる?

 普段が相当に()()な性格という事もあり、可哀想とか庇護ひご欲よりも警戒感の方が圧倒的に強いんだけど…。

 ところが、当の初音は別の感情を抱いたらしい。


「お~可哀想にのう~、よ~しよし。

 お姉ちゃんがついておるゆえ、安心致せ」


 お姉ちゃん?

 どうやら心が折れた飯綱いずなに対して、ここぞとばかりにマウントを取りにいく気のようだ。

 もしや女媧ジョカ様みたいな母性に目覚めたのか――そんな事を考えたのもつかの間、泣きじゃくる飯綱いずなを豊満な胸で包む初音の表情は恍惚こうこつというよりも、よこしまに満ちた悪どさを感じた。


「くくくっ…ほ~れ、ワシの事はお姉ちゃんと呼ぶがよい。遠慮するでないぞよ?」


「うん……ェ……」


 キリスト降誕かと見紛う光が初音に降り注ぐ。

 いや、これは…他人の弱味につけ込む新興宗教の教祖じみたカリスマ!

 封印されていたパンドラの箱に盛大につまずいてしまったかのような、やっちまった感がホームを席巻する。


「ふっ……ぅく…くくくっ、時は来たれり!

 今こそ人類妹化計画を実行に移す!」


「……どうぞ、お好きに」


 人類妹化計画とは?

 いやいや、クッソどーでもいいわ!

 俺は頭痛のする頭を抱え、次なる金策に没頭する事で全てを忘れようと努めた。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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