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異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp! 【 完結】  作者: ちゃりネコ
第二部 一章 この人数でもソロキャンと言いきる勇気編
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狩る側と狩られる側

 翌朝は日も明けきらない内に事件は起きた。

 焚き火の近くで寝ていたギンレイの耳がピンと逆立ち、急に外へ向かって激しく吠え始めたのだ。


「ンっだよ! こンな朝っぱらからよぉ!」


 ただならぬ雰囲気に全員が叩き起こされ、普段はおとなしい愛犬が見せた突然の豹変ひょうへんぶりに驚く一同を置き去りにして、そのまま朝靄あさもやの中へ飛び込んでいくギンレイ。

 急いで後を追うと一頭の大きな雄鹿が罠に掛かり、まるでドリルのようにねじれた角を振り乱してギンレイを威嚇いかくする。

 この特徴的な角…それに、こぶ取りじいさんを思わせる垂れ下がった大きな頬は、『異世界の歩き方』に記載されていたレイホウシンロクで間違いない。

 続いて人間の姿を目撃した雄鹿は更に激しく暴れ、今にも強固なステンレスワイヤーを引き千切らんばかりの勢い!


「鉄の縄が悲鳴を上げておるぞよ!」


「分かってる!

 落ち着け……落ち着いて対処するんだ…!」


 もし、万が一にでも罠が外れてしまえば、パニックに陥ったレイホウシンロクは俺達を敵と見なし、鋭い角を武器に突進してくるかもしれない。

 草食動物である鹿にそこまで警戒するのが理解できない人もいるだろうが、彼らが持つ角は乗用車のフロントガラスをアッサリ突き破る程の威力があり、過去には死亡事故まで報告されている。

 既に眠気など吹き飛んでいた俺は急いでナイフを木の棒にくくり、即席の槍で相対する鹿の心臓に狙いを定めた。


「動くなよ……一撃で……。

 せめて、苦しまなくて済むように…!」


 これから命を奪おうとする相手と目が合う。

 互いの言葉は分からなくとも、互いの心境は嫌と言うほど分かってしまう。

 狩る側と狩られる側。

 殺す人間と殺される獲物。

 どちらも同じ世界に生きる生物として、この雄鹿と俺、それに…ギンレイだって何の違いがある?

 ――駄目だ……余計な事を考えるな!


「あしな、無理ならワシが…」


「大丈夫、俺に任せてくれ!」


 そうだ、俺がやらなくちゃならない。

 飯綱いずなの住むラボでクノイチに襲われた時、後事を初音に託してしまった負い目が今も俺をさいなむ。

 もしもあの時、初音が襲撃者であるクノイチを手に掛けていたら――そう思うたびに、言葉にできない安堵と葛藤が心に残り続けた。

 初音には決して命のやり取りをさせたくない。


「もう……二度と!」


 覚悟を決めた宣言と共に、握り締めた槍が身動みじろぐレイホウシンロクの左前足に食い込む!

 刺したのは胴体と前足の付け根、その奥にある――心臓。

 雄鹿は意外にも悲鳴や目立った抵抗をみせず、僅かに鼻を鳴らして荒い息を吐くだけだった。

 ヒノモトイノシシの時も同様に心臓を一突きにした事があったけれど、こうして意識のある動物にとどめを刺すのとは全く別だ。

 ナイフと柄を通して伝わる鼓動。

 筋肉の収縮と命に届く手応え。

 傷口から激しく噴き出す鮮血。

 やがて自身の死を悟ったレイホウシンロクは大きく息を吐き、支えきれなくなった巨体をゆっくりと横たえ、全身を震わせる痙攣けいれんを最後に、永遠の眠りについた。


「あしな……ようやった」


「あぁ…」


 念の為、倒れた鹿に体重を掛けて深く突き刺し、5分ほど様子を見ていた頃、ようやく飯綱いずなの姿が見えない事に気づく。


此奴こやつなら血を見た直後に落ちてしもうたぞ」


「あー……刺激が強過ぎたのね…」


 目を回して気絶した飯綱いずなを抱え、遂に仕留めた獲物を手にホームへと凱旋がいせんを果たす。

 犠牲となった雄鹿の命を無駄にしない為、絶対に八兵衛さんを探し出してみせる!


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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