金策のモトは地道な仕込みにあり!
警戒心の強い鹿を捕らえるのは簡単ではない。
その間、同時平行で複数の金策に乗り出すべきだろう。
そこで次なる異世界ブランドは、大人から子供まで愛される甘味飲料『サイダー』
初音との会話で得た情報から察するに、異世界の文化レベルは江戸時代前後といったところ。
だったら甘い物は貴重品。
きっと町で高く売れるはず!
俺はAwazonで大容量ポリタンク10個を追加して森に入ると、一面が木々に囲まれている中の一本に目を付けた。
「ただの木じゃぞ? 木の実でも採るのか?」
「ふっふっふ、甘いぜ初音さんよ」
スマホから『異世界の歩き方』を呼び出して確認すると思った通り、これはアマミカエデの木。
少し旬は外れているが楓の木からは甘い樹液が出ており、ここからメープルシロップが作れるのだ。
サイダーを作る上で欠かせない砂糖の代用にもなるし、手持ちの調味料としても是非ストックしておきたい。
シロップの採取は幹にナイフを突き立て、斧の背でハンマーのように叩いて5cm程の穴を開ける。
そこに竹で作った樹液の取り出し口を差し込み、ポリタンクを置いて準備完了。
「これだけか? なにも起きんぞ??」
「樹液の採取には少し時間が要るんだ。
ほら、ここから染み出してるだろ?」
見れば穴の隙間から僅かに樹液が出ており、試しに少しだけ味見をしてみる。
「うん、ちょっとだけ甘い」
初音も樹液をなめてみるが微妙な表情。
「甘い…けど薄過ぎじゃないかの?
こんなので売り物になるのか?」
「もっともな意見だが心配するな。
残りのポリタンクも、罠から離れた所にある別の木に設置して様子をみよう」
手分けして設置し終えた頃、辺りが急に暗くなったのを不審に思い、空を見上げたタイミングで大きな麻袋が顔面に直撃した。
袋に入っていた松の葉が辺り一面にブチ撒けられ、遠慮のない馬鹿笑いが響く。
「ハーハッハ!
悪ィ悪ィ、う~っかり落としちまってなぁ!」
清々しい程に形だけの謝罪を口にした飯綱は俺の頭上を飛び回り、頼んでもいないのにカルバン・クラインのパンツを拝ませてくれやがりました。
コイツが女じゃなければ尻を引っ叩いてたわ!
「葉っぱなど集めてどうするつもりじゃ?
待てよ…………焼き芋か! ワシも食う!」
何故にその発想?
朝食から2時間も経っていないというのに、もう食べる気満々な食欲が末恐ろしい。
「うん、取りあえず食べ物関連の事は忘れようね。飯綱君、人の頭に物を落とした言い訳とかあるのかな? それともメシ抜きにされたいのか?」
「おやおや、グレーはお気に召さなかったか?
そうカッカすンなよ。折角、このアタシがカネの成る木を見つけてやったってェのにさ」
意味の分からん事を――。
降り積もった葉に目を向けた俺は『異世界の歩き方』を使って記載された内容を読むと、ようやく飯綱の意図に気づく。
「マツバヤニの葉は乾燥させると……煙管煙草の原料になると書いてある!
な~るほど、換金率の高い嗜好品でガッポリとは流石、御歳ウン十年は伊達じゃ――ブゲェ!」
「おっと悪ィ、今度は足が滑った」
鳥人間の足が空中で滑るなんて話、未だかつて聞いたら事がない。
旅の途中でウッカリ自分の年齢を口走ってしまった修験者サマの御御足を顔面で感じつつ、ひたすらに金策を進めていく。
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