女媧が追い求めた答え
「あしなは一緒に爺を探しに行くんじゃろ?
ワシとは長い付き合いじゃもんなぁ?」
「ナメてンのか? 厄介事を持ち込ンだ上に人様の家を丸ごと潰しといてよォ、タダで済むわきゃねーだろ!」
二人は落ち着きを取り戻したものの、互いの主張を譲るつもりは微塵もなさそうだ。
20年来の忠臣を一刻も早く見つけたい初音。
一方の飯綱は暗殺者の侵入によって、異彩を放っていた研究室は徹底的に破壊され、室内の壁には無数の亀裂まで走り始めていた。
「こりゃ~ダメだな。殆どの機器が死んでる上に、いつ崩落するか分かったもンじゃあねェ。さァ~て、どう落とし前つけてくれンのかなぁ?」
痛い所をキッチリ突いてくる辺り、この女も大概な性格の持ち主ではあるが、俺達が訪ねてきたのが原因で住む家を失ったというのも事実。
「アンタが言いたい事は重々承知してる。
八兵衛さんの捜索を手伝ってくれるなら衣食住の保証はするさ――そこの初音サマがな」
「ワシぃ!? ……まぁ、これも身を挺して主君を守った守役の為じゃ。仕方あるまい」
少々強引な取引ではあったが初音は渋々了承し、地方豪族の庇護を担保できた飯綱も一応の納得はしたようだ。
さて、残るは――。
「貴女はどうするつもりなんだ?
ずっと俺を追い続けていた理由、そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」
女媧は戸惑った顔で周囲を見渡し、口にするべきか迷う素振りを見せていたが、無言で差し出された俺の右手を見ると、決心した様子で指を絡めた。
柔らかな手から彼女の思念が伝わってくる――。
『愛しい我の嬰児たち…。
皆が皆、同胞の血で繋がっているというのに…どうして君だけが違う?』
「俺は…こことは別の世界から来ました。
自分でも信じられないし、説明もつかないけれど――異世界に来て俺は不死身に……なっちゃったんだよなぁ…多分」
「多分なっちゃったとな!?
お主、そんな気軽に言う事かや?」
初音の鋭いツッコミが心に刺さる。
しかしながら、不死身となった経緯に全く覚えがないので反論しようもない。
恐らく、女媧は早くから俺の不死身を見抜いており、その理由を知りたくて後を追ったのだろう。
そういえば、最初に触れた時のメッセージも『どうして』だった。
だが、肝心の答えなど知る由もなく、他の誰よりも俺が聞きたいくらいだ。
真相を知った女媧は尚も手を握り、涙を浮かべた瞳で見上げる。
『たとえ身に覚えのない迷い子であったとしても、ヘンショウヒキガエルに狙われた君を守りたくて……。食べられなくて良かった……』
感極まって体全体で俺を包み込む女媧。
包むという表現は比喩ではなく、彼女が備えている物体が透き通る能力によって、互いの体が完全に重なり合う。
思いも寄らない大胆な行動ながら、不思議と安堵感を覚えたのは――多分、胎内に似た雰囲気を感じたからだろう。
重なった素肌から温かい本心が伝わり、今までの誤解が解けていくのと同時に、一筋の涙が頬を伝う。
「あしな……」
謝罪、後悔、羞恥、羨望…。
それらが綯交ぜとなった視線を向けられた俺は、一言では言い表せない複雑な感情を呼び起こし、まるで母親に甘えている所を見られてしまったような気恥ずかしさから、急いで話題を反らす。
「な、なぁ…飯綱も他の世界から来たんだろ?
何か、何でも良いから知ってる事を教えてくれ」
優れた科学技術を持つ別世界の修験者なら、俺の不死を始めとした不可解な現象を解明してくれるはず。
そんな期待を込めて尋ねたのだが…。
「は~ン? なンかズレた勘違いしてンな。
アタシもお前と同じ世界から飛ばされたのさ。
とはいえ、時代に多少開きがあるみてェだな。
アタシがこの土クセェ世界に来たのは西暦2174年。今から20年くれェ前の話だぜ?」
…………想像以上にぶっ飛んでやがる!
聞かなきゃ良かったと後悔する程の衝撃が俺を襲ったのは言うまでもない。