映し出されたモノ
未知の扉を通った感想は当たり前と言うべきなのか、入った際には痛みや違和感など一切なく、若干拍子抜けとも思えた。
しかし、恐る恐る目を開けると、そこには想像もしていなかった光景が視界に飛び込む。
「ここは……研究施設!?」
「よーこそ、誰かを招いたのは初めてだな」
理解が追いつかないとか――そんな次元の話じゃない!
照明の落とされた室内は大小様々なモニターが並び、その中のいくつかは外の映像をリアルタイムで映し出す。
もし、これが元の世界だったなら、とある機関の研究室だと思っただろう。
「これ、もしかして…ライブカメラなのか?
それに、ここだけじゃない……死々ヶ淵に……あの小屋まで!」
異世界に来てずっと、ずっと気になっていた。
――監視されているような居心地の悪さ。
その感覚は日を追うごとに強まり、今では数百数千もの視線にさらされている気分をずっと感じていた。
そうだ、気の迷いや精神疾患なんかじゃない!
「おい! これは一体――」
「慌てンなよボーヤ。
アタシは別にお前らを個人的に視てたワケじゃあねェ。言っただろーが、コレは防犯用さ」
そう言ってモニターに接続されたキーボードを滑らかな手つきで操り、目まぐるしく映像を切り替えていく。
そして――。
「…俺ッ!?」
思わず息を飲む。
映っているのは過去の映像――しかも、俺が吊り橋を渡ろうとしている場面だ。
危うい足取りで半ばまで進んでいると、橋が何の前触れもなく突然崩落し、巻き込まれた俺は成す術もないまま谷底へ落ちていく。
「あれれ~? ここ、おっかしいぞ~?」
芝居めいた口調の飯綱が映像を拡大していくと、高速で飛来した刃物によって橋を支える縄が断ち切られた!
「橋の崩落は誰かの仕業だってのか!」
「ま、そういうこった。
犯人もバッチリ映ってるぜ~」
映し出されたのは見知らぬ女。
だが、モニター越しにでも察せられる異様に攻撃的な意思は尋常のモノではなく、一目しただけで伝わってくる程の熟達した体術。
八兵衛さんが持つ老練で思慮深い武芸とは全く別の、目的の遂行だけを追及した殺伐として簡素な――殺しの業!
「初音が…谷へ降りようとしているぞ!
それを八兵衛さんが止めて…屋敷の中へ入っていったのは……修験者に助けを求める気か?
あの女は……おい! う、嘘だろ……」
初音達が橋から離れた直後、女は平然とした様子で自ら谷底へ飛び込み、現実の物とは思えない身のこなしで、岩壁を蹴って谷を降りていく!
しかも、途中にある全てのカメラが撮影した映像はどれも数秒しか保存されておらず、落下する間の僅かな時間で尽く破壊している……だと?
「確かに、コイツはヤバ過ぎる!」