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遠い記憶のカケラ

 ――眩しい。

 ここは…どこだ?

 あれは…誰だっけ…。

 ああ、思い出した。

 俺だよ。

 俺が……俺を見ている…?


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「…………な……しな……あし……あしなぁ!」


 ここは…どこだ?

 あれは…誰だっけ…。

 ああ、思い出した。

 初音……また…会えたんだな。

 …………また?


「…よォ……泣いてんのか?」


「うぅ、あああ……!!」


 変な夢を見ていた気がする。

 雪山キャンプ中に異世界に飛ばされて、ワケの分からん連中に…チンチクリンの子供。

 遠い記憶のように思える夢。

 死にかけたせいかな……。


「驚いたぞ。あれ程の重傷にも関わらず、持ちこたえてみせるとは……少しは誉めてやる」


「…そりゃどーもです」


 八兵衛さんの手を借りて立ち上がったのに、初音はしがみついて離れようとしてくれない。

 参ったな。

 こういうのが一番苦手なんだけど…。

 見ればギンレイも前足でガッチリと俺を捕まえ、悲しそうな声で鳴き続けていた。

 どうやら随分と心配させてしまったらしい。

 思った通り――痛みはあるが体は動かせる。

 理屈は……考えても無駄だろう。


「ありがとうな。

 初音のお陰で助かったよ。

 ギンレイも無事で良かった…」


 腰を屈めて初音とギンレイに精一杯の礼を言う。

 今はそれだけで十分だ。


「お主は大馬鹿者じゃ!

 うぶっ……うぅえぇぇぇ……」


 返す言葉もない。

 だけど、奇妙な確信を持っていた。

 絶対に大丈夫だと……絶対に――死なない。

 思い込みとか決意などではなく、()()()()()()()()()()()

 我ながら笑ってしまいそうな話だ。

 ――けど、昨夜は火傷で真っ赤に膨れ上がっていた右手が、今ではあとも残さず治っているという現実をどう受け止めればいい?

 俺はえて考える事を辞め、別件の気掛かりについて質問した。


カエルはどうなりました?」


 八兵衛さんが無言で親指を指す先には、冷たくなった巨体が横たわっていた。

 俺が刺した腹部を中心に薄紫の変色が広がり、筋肉が意思のない痙攣けいれんを繰り返していた。

 哀愁すら感じさせる姿に、改めて持つべきではない毒の力を見せつけているようだ。


「もう御存知かと思いますけど、アイツの体には絶対に触れないでください。

 後の処理は俺が一人でやっておきます」


 暗に殺した相手を埋葬したいという思いを察した八兵衛さんは、珍しく気遣きづかう言葉を掛けてくれた。


「あれだけの大物なら手に余るだろう。

 何故なぜにお前が一人で背負い込もうとする?

 あやめたのは事情があっての事。

 むしろ誇るがよい。お前は姫様を御守りしたのだ」


 今夜の八兵衛さんは随分と優しいな。

 しかし、俺は彼の申し出を断ってスコップを片手に一人で歩きだす。

 フィッシュピックやケースはもちろん、プロテクターツールケースに入った残りも含め、一切の毒と共にカエルを埋葬する為の穴を掘り出す。

 毅然きぜんとした態度に誰もが何も言わず見届けてくれたのは正直、言葉に出来ないほど救われた。

 生き物を殺してしまった事への贖罪しょくざいとするには余りに罪が軽く、この程度で許されるはずもないが…。

 いや、それすらも言い訳か――。


じい、あしなは…どうしてワシらを苦しめた化物の為に墓を掘っておる?」


「…………かつて初陣で手柄を立てた者も同様に、討ち取った者を手厚く供養したそうです。

 葦拿あしなにとっては今夜が初陣だったのでしょう」


 静寂が支配する夜の戦場跡にて、戦いの幕は静かに降りゆく。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ネタバレ。

 あえてね。

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