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禁じられた奥の手

「嫌な予感がする…。ワシの作った会心の逸品が悪用された気がするのじゃ!」


「安心して欲しい。

 たった今、会心の一撃として役立ったぞ!」


 徐々に視力が回復する中、想定以上に苦しむカエル

 効果は抜群だ!

 きっと口内と胃袋はマグマの如き辛さと熱でグズグズになり、体の内部から破裂しそうな苦痛だろう。


「このまま距離を取ってもう一度弓矢で…な、なん……うわぁああ!!」


「どうした!? 返事をせい!」


 未だ視力の戻らない八兵衛さんの問い掛け。

 しかし、それに答えている場合ではない!

 離れようとした俺の背後から、巨体を利用して繰り出されるし掛かり攻撃!

 体当たりにも相当する捨て身の手段によって、俺の体は化けカエルの下敷きとなり、膨大な重量が容赦なく内臓を押し潰す!


「ぎぃぃいいああああ!!」


 肺に残った全ての空気が悲鳴へと置き換わり、自分でも驚くような声が上がる!

 マズい…。

 本当に……死ぬ!!


「あしな! どこじゃ! どこにる!?」


 薄れゆく意識が慌てふためく声を耳にする。

 おいおい…泣きそうな声を出すなよ……。

 けど、俺が死んだら初音は泣くのかな…?

 それは……ダメだろ…子供を泣かせちゃ……。

 殺されるくらいなら――覚悟を決めろ…!


「お前を…食ってやれないのが申し訳ないよ…」


 右手は酷い火傷で感覚がない。

 唯一自由に動かせた左手でベルトから引き抜いたのは、何の変哲へんてつもないフィッシュピック。

 本来は魚を締める時に使う針状の道具でしかないが、これが最後まで取って置きたかった奥の手!

 それを有りったけの力で勝ち誇るカエルの腹に突き刺した!

 ブクブクと膨れた脂肪特有の手応え。

 直後、見る間に傷口を中心に小さな薄紫の花を思わせる斑点はんてんが広がり、驚くべき早さで皮膚が変色していく!

 途端に、それまで鳴き声ひとつ上げなかった化けカエルの口から、大音量の悲鳴と同時に大量の吐血が吹き出す!


「あ、あしな! お主、一体何をした!?」


 もはや俺を食う事も忘れ、七転八倒するだけのカエルから命辛々《いのちからがら》といった具合で逃れ、散々に苦しめられた化物の最後を見届ける。

 コイツはもう絶対に助からない。

 何故なぜなら…フィッシュピックにはヒメユリトウロウの蜜から作った猛毒を塗っておいたからだ。

 万が一の事態に備え、針を収納するケースの中に仕込んでおいた。

 これだけは使いたくなかったが……。


「ふむ、毒か。当方の矢に塗っておけば、そのような負傷をせずとも済んだろうに。……酔狂な男だ」


 八兵衛さんは呆れた口調で作戦の不備を指摘する一方、俺を男と言ってくれたのが不思議と嬉しかった。

 …けど――もう、意識が…………。


「あしな? おい…しっかり致せ!

 爺! あしなが…あしなを助けてやってくれ!」


 遠くの方で子供の泣く声がする――。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ケースつきフィッシュピック1600

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